横綱照ノ富士(30=伊勢ケ浜)が、2連勝で戦国場所「天下とり」の主役に浮上してきた。

元横綱朝青龍のおい、勢いに乗る小結豊昇龍を寄り倒し、7勝3敗とまずは勝ち越しに王手をかけた。三役以上で3敗は横綱1人だけ。荒れる場所を鎮めるべく、終盤戦に臨む。西前頭4枚目・隆の勝、西前頭15枚目の一山本が2敗を守り、勝ち越しを決めた。

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迷いは吹っ切った。横綱照ノ富士は立ち合いで豊昇龍をつかまえた。体格差にものをいわせ、最後は体を浴びせるように寄り倒した。「ま、特別何かあるわけでもないんで。落ち着いてまわしを引いていこうと思った」。余裕の言葉とは裏腹、必死の土俵だった。

だれが優勝するのか。大混戦を招いた責任を痛感する。先場所は左膝と右かかとの負傷で横綱昇進後、初めて途中休場した。番付を序二段まで落としながら、角界の頂点に再び駆け上がった。そのドラマに影を落とした。今後の土俵は進退がかかってくる。そんな厳しい復帰の土俵。苦しみながらも優勝争いの地位は手放さない。

「まだ立ち合いの感覚がしっくりこないのが引っかかっている」。同じ文句を口にしてきた。初日に大栄翔、6日目に玉鷲、そして中日に隆の勝と黒星はいずれも立ち合いで後手に回った。勝った相撲も、押し込まれバタバタしながら逆転した相撲。横綱として満足感にはほど遠かった。

横綱の迷いが、歴史的な「大混戦場所」を招いた。中日で1敗力士も消えた。そんな「戦国場所」は、角界の頂点に君臨する者として自ら収めるしかない。

「(立ち合いは)あと5日間で何とかしたいと思っています。ここからだと思います」。今年の目標に「優勝10回」を掲げている。ここまで優勝6回。今場所を含め、今年4場所を落とすわけにはいかない。荒れる夏場所だが、不安を抱えながら最高地位の横綱が存在感を示してきた。【実藤健一】