小結大栄翔(29=追手風)が大台の10勝目を挙げて2敗を守り、敗れた翠富士と並んで優勝争いのトップに立った。7連勝中と勢いのある北勝富士を突き出した。西前頭筆頭で10勝5敗だった先場所に続き、2場所連続で2ケタ白星に到達。次の夏場所(5月14日初日、東京・両国国技館)が大関とりとなる可能性も出てきた。今場所優勝で、来場所も2ケタ白星を挙げれば大関昇進の可能性はさらに高まるだけに、優勝への思いは一段と加速する。

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右のど輪、左ハズ押しの立ち合いで、大栄翔が主導権を握った。北勝富士の上体を起こすと、そこから突いて突いて、また突いた。計6発の回転の速い突きで一気に突き出し。同じ押し相撲で7連勝中と好調の相手に、何もさせずに完勝した。「立ち合いから持って行けたので、いい相撲だったと思う。2場所連続で2ケタ勝てたのはうれしい。地力がついてきたんじゃないかなと、自分でも自信になる結果」と胸を張った。

10日目終了時点では、2差つけられていた翠富士が連敗し、連勝の大栄翔が、ついに優勝争いの先頭に並んだ。初優勝した21年初場所に続き、2度目の賜杯に近づいた。幕内後半戦の粂川審判長(元小結琴稲妻)も「いい相撲だった。迷いがない。それが押し相撲の強み。(優勝争いは)横一線だけど、少し抜けているのが大栄翔。やはり経験があるから」と高評価。3敗で追う関脇霧馬山、若元春と琴ノ若の両小結の3人とも優勝経験がなく、一躍、優勝候補の本命となった。

先場所は西前頭筆頭で10勝した。一般的に大関昇進の目安は「三役で3場所33勝」とされる。先場所の成績がカウントされるかどうかは、昇進を預かる審判部の判断次第。ただ先場所から125年ぶりに1横綱、1大関となり、今場所7日目からはその2人とも休場し、昭和以降初めて横綱、大関不在となった。番付の危機ということもあるが、何よりも1度優勝している大栄翔の審判部の評価は高い。今場所で2度目の優勝を飾り、来場所で2ケタ白星を挙げれば、大関昇進へ異論が出る可能性は低い。

当の本人は2場所連続2ケタ白星が持つ意味については「あまりよく分からない」と、大関昇進など頭にない。それよりも「残り3日間なので全力で、集中して1番ずつやりたい」ときっぱり。3日後に賜杯を抱く姿すら想像せず、目の前の一番に勝つことだけを目指している。【高田文太】