今場所前の「展望」と同じように、今回から場所の総括や本場所中では評論できない、私なりに感じたことを語りたいと思います。よろしくお願いします。

今場所は、横綱照ノ富士の4場所ぶり出場で雰囲気がガラリと変わりました。土俵入りと結びの一番に横綱がいることで、本来あるべき姿に戻りました。コロナの影響もあり世代交代に数年を要するほど長く、また優勝ラインも早々に3敗あたりに下がる傾向にありました。戦国時代もそれなりに面白いけど、やはり強い横綱がいることでピリッと締まりました。昔のお侍さんを思わせるような貴景勝には、プライドをかなぐり捨ててでも勝ちに行く必死な生きざまを見ました。

横綱、大関と関脇以下には立場の大きな違いがあります。彼らの存在があってこそ、下の力士の活躍が生まれます。私が三役の頃、横綱不在で大関に霧島さんと小錦さんしかいない時代があったけど、時間はかからず世代交代があり、逆に私たちが横綱に上がった時には、すぐに下から出島、雅山、千代大海といった有望力士が大関に上がってきました。大関に昇進する霧馬山には、前に出て一生懸命な相撲を取って、後から続く力士の壁になってほしいですね。来場所が大関とりになる関脇3人は、初日から目の色変えていかないと、誰が蹴落とされるか分からない。そんな星のつぶし合いが楽しみです。

ここまで具体的な力士を挙げて総括しましたが、実は私が一番、この場所で感じたのは十両以下の現状です。各段で、ちょんまげを結えない、つまりアマチュアで実績を残した力士が増えたな、ということです。逆に言えば、晴れて関取になる力士に中卒のたたき上げが少なくなりつつある。そんな状況を今後、どうするのか協会には考えてもらいたいと思います。

関取になれるのは、ほんの一握りです。中卒で入った場合、関取になれなかったらその後の人生は…。そう考えると、入門をためらう子どもや親御さんの気持ちも分かります。その“保証”ではないけど、第2の人生、セカンドキャリアの受け皿を作ることを考えてはどうでしょうか。また、小・中学生を教えている各地の相撲クラブの中には、運営も苦しくボランティアで頑張っている人も数多くいます。これも協会でバックアップできれば普及や入門者増につながります。

Netflix(ネットフリックス)が配信している角界を描いた「サンクチュアリ-聖域-」は、世界中のドラマでベスト6に入る、たたき上げのドラマです。世界中で見られているということは、それだけ大相撲というのが独特の神秘性のある世界ということです。その文化を大切に育て守るためにも今、取り組むべきことがあります。協会の外にいる立場から、外から見えるものがあることを言わせていただきました。

最後に、私が独断で選ぶ今場所の三賞です。正式な選考基準は度外視して選びました。殊勲賞は豪ノ山と落合の十両力士、敢闘賞は若元春と錦木、技能賞は該当者なしです。読者の皆さんもそれぞれの目線から三賞力士を決めるのも面白いでしょう。いろいろな見方があっていいのが大相撲の懐の深さでもあります。では皆さま、また名古屋場所をお元気で迎えてください。(日刊スポーツ評論家)