仕切り中の呼吸の浅かった様子から、貴景勝の緊張が読み取れました。それも当然です。初顔だし番付で大きな差がある熱海富士に負けられない気持ちが強かったのでしょう。そんな恐怖心をこらえて、頭からいい角度で当たりました。ただ、どうしても相手を見て行くから当たりの強さは熱海富士でした。押し合いの中、左からのいなしが効きました。その直後、体勢を崩した熱海富士の頭を、右手で押さえ付ける動きが一瞬ですがありました。とっさに「引いちゃダメだ」と思いとどまり、差し身に変えるとアッサリと右が入りました。やはり熱海富士との力の差で大関が一枚、上手でした。ただ、その差を熱海富士も、あと数場所で詰めてくると思います。

これで3敗で両者が並びました。優勝争いが分からなくなりましたが、この二人の14日目の相手が、貴景勝が新大関で7敗している豊昇龍、熱海富士は阿炎。いずれもくせ者です。千秋楽は貴景勝が霧島との連日の大関戦が有力で、熱海富士も上位戦と予想すると、ともに1敗はしそうな気がします。そうなると、私も5人で臨んだ経験がある11勝4敗での優勝決定戦もあるな、と予想します。12勝3敗で貴景勝が大関の責任を果たすのが理想ですが、波乱の予感がします。(日刊スポーツ評論家)