ついに捉えた! 大関貴景勝(27=常盤山)が、1差で追っていた東前頭15枚目の熱海富士(21=伊勢ケ浜)を破り、5連勝で10勝3敗として優勝争いの先頭に並んだ。

大一番で攻め続け、最後は体を預けて寄り切った。押し相撲の貴景勝が寄り切りで勝つのは全416勝のうち、わずか6度目。4度目の優勝へ、気迫で白星をつかんだ。勝てば初優勝に王手だった熱海富士は、12日目の関脇大栄翔戦に続き痛恨の2連敗。14日目は貴景勝が大関豊昇龍戦、熱海富士が前頭阿炎戦で4人の4敗勢が追う。

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乗り越えてきた修羅場の数が違う。貴景勝は思いを込め、立ち合いでぶちかました。白鵬も稀勢の里も破ってきた突き、押しで、熱海富士の上体を起こした。がむしゃらさでは負けない21歳の突進を、左からグイッといなして横向きに。さらに突いて出ると、流れで右を差した。それでも前に出続け、自身よりも11センチ、16キロ大きな相手を、胸を合わせて寄り切った。「初日から言っている通り、今日の相撲を一生懸命やることだけを考えた」。大関昇進の口上は「武士道精神」。一喜一憂せず冷静だった。

取組後、大関の意地について問われると「どんな相手でも一生懸命やるだけで特にない」と、淡々と語った。番付の重み、若手の壁になる思いは「周りが言っているだけで、結果的にそうなるようにしてきた。集中してやり切ることが、相撲につながる」と続けた。

ただ静かな口調とは裏腹に、取り口からは必死さがにじみ出た。突き放して馬力で勝ってきた貴景勝が、最後は四つ相撲のように差して前に出た。寄り切りでの白星は昨年5月の夏場所2日目、当時東前頭2枚目の霧馬山(現霧島)を破って以来、1年4カ月ぶり。全416勝のうち実に6度しかない。押し相撲、四つ相撲の概念を超越した気迫でつかんだ白星だった。師匠の常盤山親方(元小結隆三杉)は「メラメラくるものはあったでしょう。『大関として』という気持ちは強いから」と代弁した。

先場所は両膝半月板損傷で全休した。2日目の朝稽古後、器具を使って右膝をほぐす姿があった。さらに11日目の関脇若元春戦は、左腕を気にするしぐさも見せた。それでも返ってくる言葉は「大丈夫」。言い訳はせず「負けたら弱いというだけ」や「結果が全て」と言い続けた。「大関は優勝か、それ以外しかない」が持論で、実に今場所で25場所も大関を務めてきた。

くしくも入門時の師匠だった元横綱貴乃花が、4度目の優勝を飾ったのは、現在の貴景勝と同じかど番の大関の時だった。全休明けで万全でないことも明白だが、2連敗の熱海富士に対し、貴景勝は5連勝。同じ3敗でも勢いの差があることも明白だ。かつての師匠と、同じ道をたどろうとしている。【高田文太】