好調な熱海富士を前に阿炎の変化は無力でした。これだけ勢いがあり、さらに立ち合いも相手によって変えてきた熱海富士です。変わられて左足が俵にかかりましたが、すぐさま向き直ると押し合いから右四つに組み止めました。離れて取ると、攻め込んだ時に土俵際で阿炎の逆転技を食う恐れがあることも頭にあったのでしょう。きちんと腰を割り大きな体を生かした、すきのない万全の寄りでした。「どうだ、見たか!」と言わんばかりの勝ち誇った表情に、土俵を離れればかわいい顔なのに、ふてぶてしささえ感じました。

対照的に3敗で並んでいた貴景勝からは、取組前の表情から「体が動かないのでは」と感じました。いつもはかいている汗を、この日に限ってかいてなかったんです。案の定、豊昇龍の回り込む引き足に、ついて行けなかった。最後は左を差しに行きましたが、前日の熱海富士には通用しても豊昇龍には通じません。その直前の、大栄翔の必死な相撲にプレッシャーを感じたのかもしれません。

千秋楽、熱海富士は朝乃山に勝てば優勝決定です。調子のいい時の朝乃山ならともかく、負けた正代戦の相撲からはケガの影響や、ここに来ての疲れを感じました。ただ三役を目指すためには朝乃山にとっても絶対に落とせない一番で、大関経験者の意地もあるでしょう。結果がどうなるにせよ、締めくくりの千秋楽です。4敗勢を含め熱戦の連続で締めくくってほしいですね。(日刊スポーツ評論家)