[ 2014年5月16日7時58分 ]ACミランの練習場を出る際に、サポーターにサインをする本田圭佑(撮影・益子浩一)

 日本代表のMF本田圭佑(27)は、「勝者の哲学」を追い求めている。世界の頂点を狙う上での意識改革とは、どのようなものなのだろうか。1月のACミラン移籍後から密着取材を続ける中で日刊スポーツに語った、独占企画の2回目。強気な姿勢の裏側に潜める「孤独」。そして名門クラブを再建しようとする、本田の奮闘に迫った。

 本田が通うACミランの練習場から車を少し走らせれば、そこはもうスイスだ。アルプスの山々からの雪解け水が、川へと流れていく。初夏のような日差しが注ぐミラノ。車でクラブハウスから出てくる彼の表情は、どこかさえなかった。W杯は刻一刻と近づいているのに、リーグ8位に沈むチームと同じように調子が上がってこない。現地の新聞は「刀を持たないサムライ」などと、ミランの10番を背負う男を、連日のようにたたいていた。

 本田

 ある程度の苦労はすると分かって移籍してきたわけですから。で、案の定なわけですよ。まあ、だから俺にとっては、想定内の苦労ですけどね。案の定、たたかれて。まあ、そうなるわな、と。(周囲は)メッシが来るのと勘違いしていたんちゃうかな、と。そういうところ(勘違い)があるから、まずは、俺を分かってもらう作業からになっているんでね。

 W杯開幕まで1カ月を切った。4年も前から優勝を公言し続ける日本のエースは、世界一どころか、チームで不動と呼ばれる存在にすらなっていない。4日のインテルミラノとのダービーは出番なし。11日のアタランタ戦も、前半だけで代えられた。まだサッカーの本場イタリアで認められていない。大丈夫なのか?

 こんな状況で世界一に手が届くのか?

 それでも本田は自分が置かれた状況を分析した上で、名門チームに勝者のメンタリティーを、刺激を、与えようとしている。

 本田

 昔、日本代表でとっていた行動と一緒ですよね。俺は(ミランで)孤立している。あえてね。コイツ、何やろうな?

 と。自分を持っているな、と。試合へのアプローチも全部、自分のやり方で集中しているな、と。そういう風に(周囲の仲間に)思わせているわけです。

 低迷しているとはいえ、ACミランは言わずと知れたビッグクラブだ。ブラジル代表でW杯優勝を経験したMFカカ、オランダ代表でW杯準優勝のMFデヨング、イタリア代表のFWバロテリ。並々ならぬ世界的スターがズラリそろう。だが、彼らに迎合することはない。それは、どんなにいい選手がそろっていても、現状は欧州チャンピオンズリーグ優勝どころか、スクデット(セリエA優勝)にすら遠く届かないという現実があるからだ。本田はあえて孤立することでチーム内に異彩を放ち、「勝ちたい」という強烈なオーラを醸し出しているという。

 本田

 ACミランですよ。我々は。勝者のメンタリティー、1番になりたいという意欲があるヤツがどれだけいるのか?

 それは、日本代表でも同じことだろう。「我々は、日本を代表する選手だ」と。そして、彼はACミランまでをも変えようとしている。どんな化学反応が起こり、その先に再建はできるのか。もう目の前に迫ったW杯での優勝!

 それと同時に、名門復活という決して簡単ではない命題までをも、彼は背負っている。ピッチ離れればすし誕生会でチームメートと交流も○…低迷ミランの改革へ、ピッチ内では厳しく迎合するような姿勢は取らないという本田だが、ピッチを離れればチームメートとも交流している。4月のセードルフ監督の誕生会でチームメートとすしを食べた。MFカカがツイッターに写真とともに「すしの授業をありがとう」と本田に感謝。あえて孤立しているというが、完全に浮いている状況とは違う。