「パッチギ!」などで知られる井筒和幸監督(57)の3年ぶりの長編映画「ヒーローショー」が29日に公開される。戦隊ショーのアルバイトをしている青年たちが、歯止めのきかない事件を犯してしまう物語で、暴力シーンもあることから、15歳未満鑑賞禁止のR15指定が付いた。同監督の映画にはケンカはつきもの、というイメージがあるが、話を聞くと「暴力は嫌い」と言う。

 「ホンマは、喫茶店で仲良く語り合う場面が作りたいですよ。でも、語り合えないからケンカするしかない若者がいることも事実。暴力の衝動って何ぞや、を描きたかったんです」。

 最近の日本映画での暴力の描き方に疑問もある。 「学校で暴れる不良を、かっこ良く描いたり、ファッションでとらえてる作品多い。それはアカンやろって思う。暴力で解決することがかっこいいなんて、僕は全然思わない」。

 しかし、「青春+ケンカ映画」をヒットさせたことも事実だ。「責任感じてるんだよ。若者を苦しめているものに対し、僕ができることはないかって思う」。

 主演にはお笑いコンビのジャルジャル(後藤淳平、福徳秀介)を起用。大阪と兵庫生まれの2人に 関西弁をしゃべらせなかった。

 「関西弁だといちいち、ボケとツッコミが出てきてデコレーションしすぎになってしまうから。若者たち特有のギリギリの冷めた笑いは入れたけど、今の若者たちをとらえるために、極力無駄な笑いを排した」。

 思惑通りに出演者は、登場人物に重なった。「ひょっとしたら自分たちだって深みにはまるんじゃないか、という怖さを持ったみたい。等身大だったよ」。

 井筒監督は「映画は、時代と無意識がリンクして生まれる。今は『問題作』がない」と思っている。その通りの問題作が出来上がった。【小林千穂】