このコラムの初回で取り上げさせていただいた縁で、新作「ラスト・ナイツ」の14日公開を前に紀里谷和明監督(47)にインタビューする機会があった。

 想像以上にエネルギッシュな人で「命がけ」の姿勢がひしひしと伝わってきた。その紀里谷さんがしきりにうらやましがっていたのが三池崇史監督(55)だ。

 「たくさんお撮りになっているじゃないですか。正直焦りますよね」

 10年で3作の紀里谷さんに比べて三池さんは20年間で62本。約10倍のペースだから気持ちは分かる。

 のたうち回るように自分を貫く紀里谷さんと、「仕事はきたもん順に受ける」と公言する三池さんの職人気質はそもそも違う。一作ごとに別人かと思える切り口で臨む紀里谷作品に比べ、多ジャンルにまたがる三池作品は毎度違う「顔」を見せながら、どこかに三池印の個性がのぞく。

 その三池さんがついにSMAP木村拓哉(42)という「素材」を料理することになった。17年5月に公開予定の「無限の住人」で、この11月に撮影に入る。

 木村の映画といえば「HERO」(07、15年)が真っ先に頭に浮かぶが、主人公と自身のキャラが近すぎて、演技の境目が見極めにくい。

 「武士の一分」(06年)では所作や太刀さばきに潜在能力の高さを見せたが、山田洋次監督(84)との年齢差に、互いの遠慮が微妙にあったのだろう。勝手な思いだが、もっと振り切れたところが見たかった。

 中国ウォン・カーウァイ監督(57)の「2046」(04年)では、作品の一部になることを求められ過ぎたのか、肝心の個性が生きなかったように思う。

 要は映画の世界では、花を咲かせ切れていないのではないか、と感じている。

 沙村広明さんの人気コミックを原作にした「無限の住人」は、「100人斬り」の異名を持つ不死身の剣士を主人公にした時代劇だ。

 謎の老女から不老不死の肉体を与えられ、両親を殺された少女のために剣客集団との戦いに身を投じる-。リアルとファンタジーの間を行き来する三池ワールドには格好の題材。木村にとっても新境地となるはずで、ワクワクするではないか。

 衣装合わせを終えた三池さんに話を聞く機会があった。木村との初対面については「シャイな人だと思いましたね」。互いに細心の注意を払いながら、気持ちを手繰り合う様子が目に浮かぶ。木村も「現場では監督の求める『素材のひとつ』だと思うので、共演者、スタッフと集中して現場に臨みたいと思います」と懸命に三池ワールドに溶け込もうとしている。

 三池さんは「なにしろ昭和と平成を串刺しにしたスーパースターですから。業界力学を超えた高みにいて、ひょっとしたら退屈していたのじゃないかと思う。撮影現場で『映画って楽しい』と思わせたい」とも。

 芸能界の業界事情を流すでもなく、きれいごとにくるむでもなく、巧みな押し引きでこなしてきた三池さんならではのコメントだろう。木村も気持ちよく、その世界観の中を泳げるのではないか。役柄と個性の好バランスを保ちながら、時として突き抜けたところも見られるのではないか。

 「三池印の木村拓哉」への期待は大きい。【相原斎】