大泉洋(43)は座持ちがうまい。いるだけで場を明るくする。先日行われたブルーリボン賞の授賞式も彼のおかげで異例の盛り上がりを見せた。

 東京映画記者会が主催するこの賞は、前年の主演男女優賞の受賞者が司会をする決まりである。今年は大泉と有村架純(23)の登板となった。硬軟好対照の2人のコンビネーションもあり、受賞者との会話も弾んで、会場の笑いが絶えなかった。予定を30分オーバーする楽しい式となった。

 ブルーリボン賞は今年で59回を数え、キネマ旬報ベスト10(90回)や毎日映画コンクール(71回)に次いで歴史が長い。表彰する側のこちらが思っている以上に受賞者には喜んでいただけるようだ。一方で、日頃取材する側の映画記者がすべての運営を行うため、決して段取りがいいとは言えない。

 無償で司会をやっていただく前年受賞者には毎回申し訳ない思いでいっぱいである。今年は日刊スポーツが幹事社だったので、2人に進行を説明する役が回ってきた。

 授賞式開始の1時間前。台本(のようなもの)を前に時系列で確認を行う。

 大泉 表彰が終わった後の「後ろの席にお座り下さい」の部分は僕が言ったり、架純ちゃんが言ったりすることになっているけど、混乱するから、良かったら僕が全部いいましょうか。

 -ぜひ、それでお願いします。

 有村 受賞者にご登壇いただくときの言い方が各賞微妙に違いますが、注意しなくてはいけませんね。

 -(そもそも統一しようという配慮がなかっただけなのだが…)そこは有村さんの言いやすい表現でかまわないと思います。

 短時間に的を射た指摘が続く。セリフを言うことを生業にしている人はやはり違う、とあらためて思う。

 打ち合わせ終盤。

 大泉 でも、手作り感がこの賞の持ち味ですよね。だから、行き違い、すれ違いも味になりますよね。その方がいいんですよね。

 -段取る側が言ってはいけませんが、そう思っていただけるとたいへんありがたいです。

 気がつけばオープニングまで15分。部屋着姿の大泉は急ぎ楽屋へ。と、残った有村が「ちょっといいですか?」と台本を最初のページにめくり返し、「イントネーションの確認をしていただきたいんです」と映画のタイトルなど、固有名詞をひとつずつ読み上げて確認を求めてきた。

 NHK紅白歌合戦の司会までした人なのに、何という謙虚さなのだろう。A4コピー用紙をホチキスで閉じただけの「台本」がますます申し訳なく見えてきた。

 後から周囲に聞いてみると、兵庫県出身の有村はもともと「関西訛り」を気にしているようだし、4月スタートのNHK連続テレビ小説「ひよっこ」では茨城県奥茨城村に育ったヒロインを演じるため、方言指導のさなかにいる。

 大泉なら意図的になまって、笑いを「番宣」に転じそうなところだが、そこはこの日の司会のために「標準語」一直線。けなげではないか。共演したベテラン俳優たちが、彼女の演技への取り組みを一様にほめるわけが分かった気がした。

 ブルーリボン賞は映画評論家中心の他の賞と違い、撮影の過程を取材する映画記者が選考する。演技の優劣はもちろんだが、現場で接した「人柄」の部分も選考を左右する要素となる。いい悪いは別にしてそういう賞なのだ。

 そもそも記者会の主催だからお金がない。手漉きの和紙に手書きした表彰状と副賞はモンブランの万年筆。受賞者に贈られるのはそれだけである。この賞をもらったからといってギャラが跳ね上がるわけではない。欲得ずくを越えた「気持ち」の部分がなければ、成立しない賞でもある。

 だからこそ、そこにこそ価値があるのかもしれない。60回の節目を前に改めて思った。【相原斎】