アカデミー賞の発表に前後して、対象作品の試写を集中的に見た。

 改めて書くまでもないが、この賞の選考に当たっているアメリカ映画芸術アカデミーを構成するのはハリウッドの一線で働く俳優、スタッフであり、その数は6000人を越える。

 社会の風潮や政治的な思惑に左右されることがあっても、作品の質という点で大きく外すことはない。賞に絡む作品は、いずれも素晴らしい映画である。登場人物は生き生きと描かれ、さまざまな人生や社会を照らし出す。

 だが、胸躍る「ラ・ラ・ランド」を除けば、シリアスな人間ドラマが続いた。「ムーンライト」「マンチェスター・バイ・ザ・シー」「ライオン」…泣かされたり、考えさせられたりするのだが、このテの作品が重なると、さすがに少しばかり心が重たくなる。

 そんなときにこういう映画が見たくなる。「キングコング 髑髏(どくろ)島の巨神」(25日公開)。結婚披露宴のフルコースの中盤に口直しのシャーベットが欲しくなる気分である。

 タイトルからしてB級娯楽作品のノリだが、これが実に良くできている。「オタク」を自称するジョーダン・ポート=ロバーツ監督の怪獣映画への思いが随所にちりばめられ、見る側の胸を躍らせる。

 1933年(昭8)の歴史的作品「キングコング」に由来していることは言うまでもないが、今回の作品にはコングが高層ビルから転落する、あの有名なシーンは登場しない。舞台はコングのすみかである髑髏島に限定されている。

 「インファント島」内だけで「モスラ」を撮影するようなものである。この設定だけを聞くと、物足りない感じがするが、島の環境と時代の設定が巧みで、おまけにあふれんばかりのネタが仕込まれている。史実との継ぎ目にも工夫が施されていて、荒唐無稽と笑えない納得感で物語に引きずり込まれる。

 73年。まずはこの時代設定だ。ベトナム戦争の終結とともに地球資源探査衛星ランドサット計画の幕開けの年である。

 衛星が捉えた謎の島。探検隊にはベトナム歴戦の小隊が同行する。さらには戦場カメラマンに英特殊部隊出身の流れ者も加わる。

 「強敵」に相応しい陣容は「エイリアン2」(86年)をほうふつとさせ、ヘリコプターの隊列は「地獄の黙示録」(79年)を思い出させる。バックには70年代を象徴するジェファーソン・エアプレインやブラック・サパスが鳴る。序盤からいけいけムードが漂う。

 髑髏島は南太平洋の台風の発生地域にあり、周囲から隔絶されている。ガラパゴス状態で生物は特異な進化を遂げているというわけだ。

 ここから先は詳述を避けるが、コングは巨大なだけではなく、軍事ヘリを相手にしたジャンプ力でも目を見張らせる。オリジナル作品から83年を経て、VFX(特殊効果)の進化が3D映像でいやというほど実感できる。

 元特殊部隊員役のトム・ヒルドストンは「恐ろしい自然の力そのものであるとともに、知性と感覚を兼ね備えた生物でもあるんです」と、今作のコングの性格付けを明かす。このコメントが大きなヒントになっていて、人間をも食用にする巨大トカゲなど、さまざまな怪獣の出現によって「コングVS探検隊」の図式は微妙に変化していく。

 冒頭には第2次大戦中のエピソードが織り込まれ、「日本刀」が随所で活躍する。エンドロール後にも日本の怪獣映画へのオマージュを込めたエピソードが登場するので、最後まで席を立たないことをお薦めする。

 ハリウッド映画に大量の中国資本が注入されるようになり、その巨大なマーケットもあって、東洋人といえば中国人が登場する作品が増えてきた。が、この作品に関しては製作スタッフの強い思いが日本にささげられている。

 キャストも一線級で、一昨年「ルーム」でアカデミー主演女優賞を得たブリー・ラーソンが戦場カメラマン役で出演している。【相原斎】

「キングコング 髑髏(どくろ)島の巨神」(C)2016 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC., LEGENDARY PICTURES PRODUCTIONS, LLC AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC. ALL RIGHTS RESERVED
「キングコング 髑髏(どくろ)島の巨神」(C)2016 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC., LEGENDARY PICTURES PRODUCTIONS, LLC AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC. ALL RIGHTS RESERVED