7月8日公開の米映画「ライフ」は、あるようで無かったタイプの作品だ。現代テクノロジーのリアリティーを追求した「ゼロ・グラビティ」と、近未来に時代を進めて「最強の宇宙生物」を登場させた「エイリアン」の、ちょうど中間当たりに位置している。

 「デンジャラス・ラン」(12年)の大ヒットで知られるダニエル・エスピノーサ監督(40)に、主演は「ブロークバック・マウンテン」(05年)のジェイク・ギレンホール(36)と実力派の組み合わせだ。

 テレビのドラマシリーズも合わせ、すっかり米エンタメ界に定着した真田広之(56)がこの作品でも4番手で出演している。

 米、ロ、日…宇宙ステーションに集結した6人のクルーが、火星から帰還した無人偵察機を回収。そこには、このミッションの目的でもあった未知の生命体がいた。生命体は恐ろしいスピードで成長、やがて1人また1人とクルーが殺されていく。驚異的な生命力を持ったモンスターを倒し、地球への侵入を阻止することはできるのか…。無重力空間やステーションの内部は細密に構築され、微生物からしだいに巨大化するモンスターのリアリティーにも唸らされる。

 息をのむ進行の中で「まさかこの人が!」というキャストもあっけなく命を落としていく。興趣をそぐので詳述は避けるが、システムエンジニアとして登場するわれらが真田広之は終盤まで活躍する。地球で待つ妻の出産エピソードも盛り込まれ、明らかに4番手以上の扱いだ。あらためて「ハリウッドに真田あり」を実感させてくれる。

 4年前の「ウルヴァリン:SAMURAI」での活躍といい、近年の真田はしっかりと足元を固めた感がある。さかのぼれば、03年の「ラストサムライ」がきっかけになったと思う。スクリーン上はもちろん、舞台裏の撮影現場でも圧倒的な存在感を示したようだ。4年前のインタビューでは「最初で最後のハリウッド映画になってもいいという思いで、殺陣にも時代考証にもしつこいくらいに口出ししました」と振り返っている。

 ハリウッド映画にありがちな「おかしな日本の描写」を可能な限り無くしたいという思いがあったようだ。編集作業にも立ち合った。「嫌われたなあ」とも思ったという。

 作業が終わった後、スタッフの1人から食事に誘われた。「いい話じゃないな」と思ったそうだ。が、行ってみれば、そこは真田だけのために開かれた撮影スタッフ全員による「感謝の夕げ」だった。

 代表者のスピーチは「いつの間にか惰性で映画作りをしていた私たちに、あなたは初めてスタジオに入った時のフレッシュな感覚をもう1度味わせてくれました。ありがとう」。真田は男泣きしたという。

 一線スタッフの口コミで、真田の評判が広がったことは想像に難くない。

 20代の頃から取材機会が多かったので、人一倍の研究熱心さや、それによって撮影所のベテランスタッフからも一目置かれたことをよく知っている。このエピソードもその道の先にあったと考えれば得心する。

 4年前のインタビューは久しぶりの取材だった。老眼鏡をかけてメモを取り始めた私に「度数はいくつですか?」。「1・5ですけど、ちょっときついんです。1・0じゃ見えづらいし」と答えると、「僕もそのくらいですけど、アメリカは0・25刻みだから、ちょうどいいのがあるんです…」。音声データを聞き直すと、そんなやりとりから始まっている。

 老眼鏡年齢に達した真田だが、今やハリウッドに根を張り、しっかりと一線に足を置いている。努力や苦難を垣間見てきただけに、その重さをじわっと感じている。【相原斎】