カルト的人気のあった米ドラマ「ツイン・ピークス」が25年ぶりに再スタートした。新シリーズに合わせて来日した主演のカイル・マクラクラン(58)に撮影の舞台裏や近況、伝説の監督デビッド・リンチ氏(71)の素顔を聞いた。


 -25年ぶりの「ツイン-」の撮影現場はいかがでした。

 「この何年も『あの世界』に戻りたいと夢みていたから、ものすごく興奮しました。長いブランクにもちゅうちょはありませんでした。リンチ監督の現場には必ず何かが起こるんですね。ロサンゼルスなのに信じられないくらい寒い日があって、血のりが凍って何度も撮影がストップしました。血が凍るとはあのことかも。ご存じの通り大量の血のりが必要な作品だから(笑い)ホントに往生しましたね」

 -「イレイザーヘッド」(76年)のデビュー以来、リンチ監督には謎めいた雰囲気が付きまといます。独特の演出方法があるように思うのですが。

 「友人ということもあって居心地のいい現場です。芸術家肌のように思われているかもしれませんが、演出法は明解で指示も具体的です。ユーモラスで私たちをリラックスさせてくれる気遣いもある。ほんわかしたホームドラマを撮っているような空気です。それが、映像になるとまったく違う。出ている私たちには想像できないものになっている。音響や映像処理でひとひねりもふたひねりもした独特の世界が出来上がる。『デューン 砂の惑星』(84年)以来、彼の作品には数多く出してもらったけど、そのたびに新しい驚きがあるんですよ」

 -カイルさんに役に入るスイッチがあるようにリンチ監督にもクリエーター・スイッチがあるんでしょうね。

 「それが驚くほど変わらないんです。まったく同じなんです。映画撮影が無いときも絵を描いていたり、工房で彫刻を作っていたり、24時間クリエーティブな集中力を持続している。だからこそ、あんな奇妙な世界が作り出せるんでしょうね(笑い)」

 -リンチ作品以外でも「セックス・アンド・ザ・シティ」や「デスパレードな妻たち」などの人気ドラマで活躍されています。役柄を選ぶ基準はあるんでしょうか。

 「監督やプロデューサーもプロだから、考え抜いた末に僕にオファーしてくる。実は断る余地ってあんまりないんですよ。だから、たいていのオファーは受けます。受けて良かったという経験の方が多いけど、まれにやめとけば良かったと思うことも正直ありますよ。どの作品かは言えませんが(笑い)」

 -テレビ・プロデューサーのデザリー・グルーバーさんと16年前に結婚し、長男のカルーム君は(7月)25日に9歳になりますね。

 「母親に似たからとってもキュートですよ(笑い)。いろんなものにはまっています。テコンドー、ポケモン、ハリー・ポッター、クラッシュ・オブ・クラン…。息子のおかげで僕も新しい世界に触れることができて勉強になります」

 ーワイナリーをお持ちですね。フランシス・フォード・コッポラ監督も有名ですが、ワイン作りと映画(ドラマ)作りには重なるところがあるのでしょうか。

 「僕のは共同経営ですけどね。『Purst By Bear』という名前は大好きなシェークスピアの『冬物語』の熊のシーンから付けました。まあ、映画人はたいていまず飲むのが好きですからね。ワイン作りってクリエーティブでけっこう予想不能なところがあって、そこが映画作りに近いと言えばそうかもしれない。確かにオレンジ育てるより映画的かもしれませんね(笑い)」

 -最後に改めて「ツイン・ピークス」はあなたにとってどんな存在ですか。

 「リンチが僕にくれた特別な贈り物ですね。僕の人生にとって決定的なものです。クーパー捜査官という役も2人で作りあげたという実感があります。実は新シリーズではクーパー以外の役もやっているんです。ネタバレになるから詳しく話せないのが残念ですけど(笑い)」


 舞台出身のマクラクランは25歳の時、リンチ監督の「デューン 砂の惑星」の主役に抜てきされて以来、映画、ドラマで常に一線に立ってきた。落ち着いた受け答えに、スランプのない順調な歩みを実感した。

 前シリーズ30話はヒロイン、ローラの死に大きな謎を残したまま終了した。新シリーズは、そのローラの「25年後に会いましょう」の言葉に合わせて四半世紀の時を経て再開した。22日からWOWOWで放送中だ。      【相原斎】