漠然とイメージしている「専守防衛」の戒めは、有事の前線ではどう守られるのか。現実にあり得る限定的戦闘でハイテク兵器はどのように使われるのか。5月24日公開の「空母いぶき」(かわぐちかいじ原作、若松節朗監督)は、その一端を垣間見せてくれる。

クリスマスイブ前日の未明。沖ノ鳥島西方450キロの波留間群島初島に国籍不明の武装集団が上陸する。設定は具体的でリアルだ。一方で、武装集団の正体は「東亜連邦」。国境にまたがる新興勢力はアジアにできたISのようなイメージだが、その思想や宗教的背景は明らかにされない。

現実に想定される周辺有事と切り離したこの虚構部分があるからエンタメとして楽しめる。

現場に急行した海上保安庁の巡視船は連絡を絶ち、武装勢力に拘束された模様だ。首相官邸に続々と閣僚が集まり、好戦的な閣僚の声に首相は口をつぐむ。首相役は佐藤浩市。苦悶(くもん)の表情から、初物ずくめの課題の重さが伝わってくる。逡巡(しゅんじゅん)の末、近海にいた自衛隊第5護衛隊群に海上警備行動が命じられる。

旗艦の護衛艦いぶきは戦闘機を搭載した事実上の「攻撃型空母」で、計画段階から憲法違反の指摘があったという背景が登場人物のセリフの端々から浮かび上がる。以下イージス艦と護衛艦がそれぞれ2隻、潜水艦が1隻という陣容だ。

いぶきの2トップは空自出身の艦長・秋津(西島秀俊)と海自生え抜きの副長・新浪(佐々木蔵之介)。2人は防大同期でトップを争った間柄で、どこの組織でもお決まりの確執がある。一匹おおかみの戦闘機乗りとチームプレーの船乗り気質の違いも絡み、2人のやりとりが「専守防衛」にさまざまな方向から光りを当てる構図になっている。

いぶきにはネットメディアの女性記者(本田翼)と全国紙のベテラン記者(小倉久寛)が演習の同行取材で居合わせていて、降って湧いた「実戦」に情報開示のあり方も問われてくる。

初島に接近するに従って東亜連邦の空母や駆逐艦が姿を現す。端的に言えば、量は東亜連邦、質は第5護衛隊群がそれぞれ勝っての対峙(たいじ)となる。そしてついには苦悩の官邸から1レベルアップの「防衛出動」が発令される。

先手を打つことが許されない分、高度な機能やスキルが求められるわけだが、実態に即していると思われるミサイル、魚雷、戦闘機、そして対艦砲…ハイテクを駆使した限定戦の描写に迫真力がある。

敵隊員も含めた人命の重み、戦争にしてはいけない戦闘のあり方。米国の戦争映画なら「迷わずGO!」の局面で、踏みとどまらなければいけない、有事の対処が浮き彫りになる。

前線はもちろん、ネット情報でざわつく世間から隔絶され、ひたすらクリスマス用の「長靴」作りにいそしむコンビニ店長を中井貴一が象徴的に演じている。

嫌な話から耳を背けがちでないか。痛いところを突かれた気がした。

【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)