囲碁を題材にしながら、盤上の戦いに止まらず実際のアクションでも魅せたのが、チョン・ウソン主演の「神の一手」(14年)だった。

韓国の囲碁人気は日本でいえば将棋に相当するのだろうが、もっぱらヒューマンドラマの枠内で描かれる日本の将棋ものとは違い、本格アクションを絡め、あくまで娯楽大作に仕上げようという貪欲さが韓国映画にはある。

8月7日公開の「鬼手」(リ・ゴン監督)は、「神の-」同様に賭け碁の過酷な世界を舞台に、「巨人の星」をほうふつとさせる主人公の少年時代の鍛錬も盛り込んだ肉厚な作品だ。

幼くして両親を失った少年グィスは、唯一の肉親だった姉を死に追いやったプロ棋士イルド(チョン・インギョム)への復讐(ふくしゅう)を果たすため、賭け碁の世界に身を投じる。

映画は彼の前に立ちはだかる個性的な棋士たちを、「麻雀放浪記」を劇画チックに誇張したようなキャラクターで描き、その修業と復讐の旅を描く。

山寺での修業シーンでは、知力、気力に腕力の鍛錬も加わるが、大金が動く賭け碁の現場を生き抜くためには、格闘術も必須と中盤からの修羅場の連続で納得させられる。

「神の-」では40代に入ったばかりのウソンが満を持して出演し、代表作の1本となった。今回も脂ののりきったクォン・サンウが成人後の主人公グィスを演じている。「私にとっても修練を与えられた気分だった」と振り返り、3カ月の準備期間にはアクションと碁の訓練を交互に行った。

「釜山の雑草」「長城の占い師」…対戦相手は誰もがユニークで、囲碁が分からなくても碁風を超えた個性を楽しめる。碁の腕は素人だが、対戦の仲介者として抜群の能力を発揮する相棒役トンに名バイプレーヤーのキム・ヒウォンがふんして、緊張が続く展開を随所で和らげてくれる。

撮影監督のキム・ドンヨンは照明の基調を少年時代のオレンジから青年以降の青系統に変えたという。対局ごとに碁盤に細工があったり、アクション現場も迷路のような街並みや立体的な廃工場と、それぞれに工夫があって、とっつきにくい「囲碁映画」を分かりやすい娯楽作品に仕立てている。

人気ドラマ「世界で一番可愛い私の娘」で長女ミソンを演じたユソンが紅一点で出演しているのもちょっとうれしかった。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)