市村正親(68)がエンジニア役で主演したミュージカル「ミス・サイゴン」は先日、千秋楽を迎えたが、3月10日からは本家ロンドンのプリンス・エドワード劇場で上演された25周年記念公演を最新映像技術で撮影した映画「ミス・サイゴン:25周年記念公演inロンドン」が東京・有楽町の日劇などでロードショー公開される。

 一足早く試写を見たが、その臨場感に圧倒された。ベトナム戦争を背景に、ベトナムの少女キムと米兵クリスの悲恋を描いた作品で、89年にロンドンのウエストエンドで初演された。初演から25周年を記念する公演が15年9月22日に行われ、ズームアップを多用した舞台上の演技をしっかりととらえた映像は圧巻で、後日、観客を入れずに行われた追加撮影分の映像も合わせて、生の舞台に劣らない迫力がある。

 そして、最も盛り上がったのが、25周年記念スペシャル・フィナーレだった。初演時のオリジナル・キャストであるエンジニア役のジョナサン・ブライス、キム役のレア・サロンガ、クリス役のサイモン・ボウマンらが登場。ブライスはちょっと老けた印象だったが、「アメリカン・ドーリム」を力いっぱい歌い上げた。着ていた赤い上着を、当時のエンジニア役のジョン・ジョン・ブリオネスに手渡して、「50周年の時に着て歌ってくれ」と声を掛けると、満員の観客から大きな歓声が上がった。

 ロンドン公演は16年2月に閉幕したが、ブリオネスらロンドン・キャストを中心に今年5月から期間限定でブロードウェーで上演されることが決まり、その後、全米ツアーを予定している。

 「ミス・サイゴン」はベトナム、タイを舞台にしているだけに、フィリピンをはじめアジア系俳優たちが活躍している。日本版でキムを演じた新妻聖子がロンドンのプロデューサーから英国公演への出演を打診されたが、スケジュールの都合で実現しなかった。しかし、森尚子がキム役、中野加奈子がジジ役などでロンドン・デビューしている。

 松本幸四郎が染五郎時代に「ラ・マンチャの男」でブロードウェー・デビューし、一昨年には渡辺謙も「王様と私」でブロードウェーで主演している。市村エンジニアは92年の日本初演から再演のたびに見ているけれど、市村ほど踊れて、色気のあるエンジニアはロンドン、ブロードウェーにもいない。市村は蜷川幸雄演出舞台などのロンドン公演を経験しているけれど、ミュージカルでも海外の観客から歓声を浴びる姿を見たかったと思うのは、たぶん、私1人だけではないだろう。【林尚之】