大竹しのぶ(59)が79年に22歳で主演したミュージカル「にんじん」(8月1~27日=東京・新橋演舞場、9月1~10日=大阪松竹座)に38年ぶりに再挑戦する。

 フランスの作家ルナールの名作「にんじん」を原作に、にんじんのように真っ赤な髪とそばかすだらけの顔をした12歳の少年にんじんを主人公にした家族の物語。

 7月に60歳還暦を迎える大竹は「2、3年前に『もう1度やりたい役は何?』と聞かれて、ぱっと浮かんだのが『にんじん』でした。お芝居とは再演を重ねてよくなるものだと思うのですが、『にんじん』は1回しかできなかった。『もう1度、にんじんに会いたいのなら、60歳を過ぎてピーターパンを演じる俳優さんもいるから、できるわよ』という甘い言葉に調子に乗って、還暦の記念で実現したんです。38年前ですが、曲も全部覚えていて、それだけ深く心に残っていた昨品なのだなと思った。初演時には、カーテンコールで子供が走ってきて『にんじん、頑張って!』と言ってくれたり、電車の中で子供が『にんじん、大丈夫かな』と心配してくれたというおハガキをいただいた。38年たって上演する意味が分かるように、いいお芝居をつくっていきたい」。

 先日、写真家篠山紀信氏がポスター用の写真撮影を行った時、38年前の舞台を見ている篠山氏に「あんた、今もできるんじゃない!」と言われたという。しかし、出来上がった写真を見た大竹は「『ふざけるな』と思った。これでお客様が来てくれるんだろうか? というのが正直な気持ちです。『おばさん、楽しいことあったの? 良かったね。あそこのお店、3割引きだね』みたいな感じですよ。どうしよう、これで子供の心をつかめるのか、お客様が来てくれるのか、不安になりました」と自虐的に話した。

 兄役に中山優馬(23)のほか、母親にキムラ緑子(55)、父親に宇梶剛士(54)と年下が配役された。大竹は「『寂しい、愛されたい』というにんじんの思いが、最後の場面で『みんなひとりぼっちなんだ。でも、頑張って生きていく』という、すがすがしい思いになるので、初演時は毎日浄化されました。1日2回公演じゃ足りなくて、家に帰ってからも友達を呼んで、歌っていたくらいです」。

 ただ、悩みもある。「ポチャとしていても、少年だから、いいかなと思ったんですけど、少年のポチャとおばちゃんのポチャでは違うので、これから考えたいと思います」。

 38年前の初演も見ている。今回の公演ちらしの写真は、当初は初演時の舞台写真だったが、それが最近になって、篠山氏撮影の写真に差し変わった。それを見た時、38年前と変わることなく、少年にんじんがいると思った。それが大竹の「俳優力」だろう。「友達も『何考えてんの』って(メールを)送ってきた」という自虐的な発言を繰り返したが、それも大竹ならではのテレだと思う。38年ぶりに大竹にんじんと再会できる、本番が楽しみになった。【林尚之】