出演者、スタッフ、観客で75人もの新型コロナウイルス感染者を出した舞台「THE★JINRO」の主催会社がこのほど、事実経緯報告書を公式サイトに掲載した。最初の感染者が判明してから約3週間も経過したものにしては、何ともお粗末な内容だった。

それによると、小劇場協議会が作成したガイドラインに沿って、最前列の観客にフェースシールドを配布して着用を依頼したものの、観客から強いクレームを受けて大多数がつけることを拒否したという。また、観客による「出待ち」「入り待ち」も禁止されていたが、「約10人が出待ちをしていた」「一部の公演で数人が出演者に近づいた」という。

しかし、これらのことは主催者が強い態度で着用を義務づけたり、出演者に近づかないようにガードするなどの対応をしっかりとするべきものだろう。それを「スタッフの目の届かないところでのファンへの対応は、弊社では極めて困難でした」と釈明するだけで、自分たちの舞台から感染者を出さないという当事者意識が欠けていたと言えるだろう。

この舞台の会場となったシアターモリエールも、大きな代償を払った。ほかの渋谷、恵比寿の小劇場に断られ、公演の1週間前に、貸し出しを決まったという経緯があるが、今回の劇場クラスターで、「ワクチンが発表されるまでは、すべて無観客による公演及び稽古場貸し出しなどに限らせていただきます」と、当面は有観客の公演から撤退することになった。

モリエールは新宿のど真ん中にある小劇場で、立川志らくが自ら主宰する劇団の公演や、お笑いライブも行われるなど、演劇関係者によると、使いやすい劇場と評判も良かっただけに、気の毒としか言いようがない。

演劇は7月から徐々に再開しているけれど、舞台上に密にならないように、出演者同士で間隔を空けたり、出演者がフェースシールドをつけたり、透明のスクリーンを舞台上に小道具の一種のように置いたり、感染予防の対策を取っている。客席も前後左右を空けて、定員よりも半減させるのはもちろん、席を空けた上に客席ごとにアクリル板で左右を仕切るなど、採算を度外視して、観客の安全を優先しているところもある。そんな多くの演劇人の苦労を、劇場クラスターを発生させた主催者は踏みにじった。【林尚之】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「舞台雑話」)