女優の鈴木杏(33)が読売演劇大賞・最優秀女優賞を受賞しました。同賞は、昨年1年間に上演された舞台の成果を顕彰するもので、1994年に創設され、今回で28回目を数えます。鈴木は一人芝居「殺意 ストリップショウ」の緑川美沙、シェークスピア作品を野田秀樹が大胆に潤色し、ルーマニアの演出家プルカレーテが演出した「真夏の夜の夢」のそぼろ役の演技が高く評価されました。「殺意」は、コロナ禍で中止が続いていた演劇公演が再開され始めた7月に上演され、鈴木は2時間の舞台を1人でしゃべり続け、すさまじい熱量の舞台でした。私も投票委員として、迷うことなく、最優秀女優賞で鈴木に1票を投じました。

鈴木は4年前にも最優秀女優賞を受賞していて、2度目になりますが、大賞は初めてです。大賞は、男優賞、女優賞、演出家賞など5部門の最優秀賞の中から選ばれるもので、過去の大賞受賞者は杉村春子、森光子、黒柳徹子、大滝秀治、蜷川幸雄、片岡仁左衛門、橋爪功というそうそうたる顔ぶれが並んでいます。今も活躍する女優では、02年に45歳で大竹しのぶ、17年に44歳で宮沢りえが受賞していますが、その2人と比べても鈴木の33歳での受賞は際立っています。

受賞が発表された直後に鈴木は、自身のインスタグラムで「誰よりも私がびっくりしています。誰よりも私自身が『まだ大賞を受け取るには早いのでは…』と思っています」と、大賞受賞に戸惑う気持ちをつづっていました。

鈴木は今年で55回を数える「紀伊国屋演劇賞」の個人賞も受賞しました。2月3日の贈呈式では「リスクを負ってでも、劇場に足を運んでくださる皆さんを見て、これまでエンターテインメントは皆さんの心に触れるものだと思っていましたが、この状況に身を置いた時、これは命に触れている仕事なんだと、私の中で価値観がガラリと変わりました」とあいさつし、舞台にかける思いがより強くなったようです。

鈴木の受賞には、「殺意」を2度も見たという広瀬すずをはじめ、石田ゆり子、高岡早紀ら女優仲間からも祝福の声が上がっています。4年前に最優秀女優賞を受賞した時には親友の蒼井優からバッグが贈られたそうですが、今回もプレゼントはあるのでしょうか。鈴木は6月には新国立劇場で井上ひさし作品の「キネマの天地」に出演する予定で、充実した演技が続く鈴木の舞台は見逃せません。【林尚之】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「舞台雑話」)