歌舞伎俳優坂東弥十郎(66)の快進撃が止まりません。三谷幸喜脚本のNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」で北条時政役を好演し、一気にブレークした。

歌舞伎では老け役から女方まで幅広い役柄を演じ分ける確かな腕で、毎月のように舞台に出ていたが、映像の世界ではあまりなじみがなかった。しかし、時政役をきっかけに、放送中のTBS系ドラマ「クロサギ」では大物詐欺師を演じ、数々のバラエティー番組にも出演するなど、人気もうなぎのぼりです。

長期間の「鎌倉殿」出演のため、今年7月に1年3カ月ぶりに歌舞伎座に出演して以降、8、9月は歌舞伎座、10、11月は平成中村座と引っ張りだこです。

そんな弥十郎が満を持して挑むのが、12月の「13代目市川團十郎白猿」襲名披露興行の夜の部「助六」の髭の意休と、来年1月の歌舞伎座第二部「人間万事金世中」の主役の辺見勢左衛門です。

髭の意休は、團十郎ふんする助六と対立する敵役で、これまでに17代目市村羽左衛門、13代目片岡仁左衛門らが演じた大役です。

また、「人間万事金世中」は河竹黙阿弥の作品で、辺見勢左衛門は金に汚い強欲な男です。弥十郎が歌舞伎座で主演するのは17年の父初世坂東好太郎三十七回忌、兄の二世坂東吉弥十三回忌の追善狂言「修善寺物語」の夜叉王以来、6年ぶりですが。2カ月続いての大役は「鎌倉殿」効果でしょう。

弥十郎は自身のブログで「大役をいただきました。髭の意休に続く大役。全身全霊をかけて臨むのは当たり前ですが、どれだけすべてをかけて臨んでも、お客様に来ていただけなければ、なんの意味もありません。どうか私がいただいたチャンスを皆様のお力で、次に繋がるように応援してください」と呼びかけました。若い頃は183センチの長身のため役に恵まれなかったなど苦労人の弥十郎にとって、時政役でつかんだチャンスを今後に生かせるか、まさに正念場です。【林尚之】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「舞台雑話」)