しつこいようだが近年、知り合いを増やしたいとか、みなでワイワイ騒ぎたいとか、飲み会で朝まで酔いたいとか、グループ旅行に行きたいなどといった思いはほぼ消滅し、「とにかく1人になりたい」という“孤独願望”が劇的に高まっている。

それだけに当然、渋谷あたりで勃発しているハロウィーンにまつわるから騒ぎ的な事象に参入することは今年も一切ない見込みなのだが、で、何をしていたかというと筆者は1人、神奈川北西部の山の中にある、晩秋にさしかかり静まりかえった「相模湖」にいた。

もともとは本紙レジャー面の温泉連載取材で近くを訪れていたのだが、相模湖畔を通った際、湖に浮かぶ「あるもの」が目に入って、いてもたってもいられなくなった。そう、カップルなど2人組でペダルをこいで操舵して湖面を進む、白鳥型の「スワンボート」である。

見よ、相模湖に浮かぶスワンボートの雄姿。係員から「お1人様でスワンボートとは…珍しいですねえ」と言われたが、はっきり言って筆者が行楽地で1人じゃないことのほうが珍しい
見よ、相模湖に浮かぶスワンボートの雄姿。係員から「お1人様でスワンボートとは…珍しいですねえ」と言われたが、はっきり言って筆者が行楽地で1人じゃないことのほうが珍しい

温泉取材や個人的温泉行脚で山間部に行くとよく、各地の湖畔を通るのだが、スワンボートが浮かんでいれば必ず利用するようにしているほどの「1人スワンボート」好きなのだ。広い湖面で孤独になりつつ、のんびりとスワンボートをこぎながら揺られていると、頭の中の雑念その他が消え去るという強力な効果があることを確認している。

というわけで今回も即、30分1500円の利用料金を相模湖畔にある業者の受付で払い、スワンボートに単独で乗り込んだ。

ただ、「おひとり様」でスワンボートを利用する人は珍しいらしく、受付時、担当者から「おひとりですか? 何かの調査でもするんですか?」と、ややまじめな表情で突っ込まれ、「い、いや…その…ちょっと、時間があったりなんかしたので」とわけのわからない説明をして回避。筆者の容貌が原因なのか、1人でスワンボートを利用する際、若干“不審者”かのように思われがちなのはいつものことなのだが、今回も、いきなりの“アウェイ感”が漂う。

何はともあれ、スワンボートに乗り込み、いざ出発だ。平日で、かつ夕方だったこともあってか、視界に入る範囲でほかにスワンボートをこいでいる人はほとんどおらず、湖面を独占状態。遠くを見ると、小さな島があったので、その島をぐるっと1周して戻る計画を立てた。

前方に見える島を1周するという短期的目標ができ、3年ぶりくらいに、何かに対するやる気が出た
前方に見える島を1周するという短期的目標ができ、3年ぶりくらいに、何かに対するやる気が出た

あとは黙々と美しい景色を眺めつつ、山々に囲まれた静寂な相模湖の湖面でスワンボートをこぎ続けるだけだ。カップルなら会話が弾むのであろうが、1人なだけに大自然と“対話”するしかない。半径数百メートルには誰もいない。

求めていた“孤独願望”が一定程度実現したことに気付いて興奮し、ニヤけていたら、ちょうど、モーターボートに乗って近くを通った若者3人組が、筆者の顔をけげんそうにジロリ。「あの男…1人でニヤニヤしながらスワンボートこいでるけど大丈夫か?」みたいな会話が交わされた可能性が高いと推察したが、ひょっとしたら通報された可能性もある。

まあいい。目標の島をぐるりと1周し、出航した湖畔に向けて戻り始めると、妙な達成感に包まれたことも確かだ。ちょうど、美しい夕日が山々の尾根、そして湖面に向け、沈み始めたところだった。

ガラにもなくセンチメンタルな気分になりかけたのだが、冷静に考えるとやはり、40代の、よく「なんか、目付きが怖い」と言われる“謎の中年男”が1人でニヤニヤしながらスワンボートをこいでいるのはかなりまずい可能性がある。

相模湖に沈む夕日を陶酔した表情で眺めつつ、1人スワンボートを黙々と漕ぎニヤける、人相が悪い中年男…客観的に見てもかなりまずい状況だ
相模湖に沈む夕日を陶酔した表情で眺めつつ、1人スワンボートを黙々と漕ぎニヤける、人相が悪い中年男…客観的に見てもかなりまずい状況だ

こぎ出してから30分後、時間ぴったりに着岸。もはや湖全体から漂いまくる“アウェイ感”は増すばかりとしか思えなかったが、なんだかんだ言って今回も十分リフレッシュできたから、やはり、湖での「1人スワンボート」はやめられない。

その勢いで“湖が見えるファミレス”こと「ガスト相模湖店」に駆け込み、ひと息ついたことは言うまでもない。(「相模湖編」たぶん続く)【文化社会部・Hデスク】