中村隼人(21)が、現在公演中のスーパー歌舞伎セカンド「ワンピース」(東京・新橋演舞場、11月25日まで)で好演中だ。ルフィ率いる麦わらの一味のサンジ、ニューカマーランドの革命戦士・イナズマの2役それぞれを魅力たっぷりに演じている。

 ここ2~3年、体つき、顔つき、がらりと変わった。男になった。10代までは女形も、(男性を演じる)立役もやっていたが、立役に絞った。体重は20キロ近く増やし、175センチの体が舞台に映える。

 「隈(くま)取りが3階席からもちゃんと見えるように、顔も大きくしたくて。足もがっしりしましたね」

 「ワンピース」では、そんな男ぶりが目を引く。麦わらの一味が勢ぞろいする序盤、早くも客席から歓声が上がった。キセルを手に「美女に弱いがたまに傷」と名乗るサンジ役だ。原作漫画は8歳のころから読んでいた。中でも一味のコックを務めるサンジが大好きだったそうだ。

 「大好きだからこそ、歌舞伎になった反応が怖かった。最初は手探り。1カ月稽古をやって、やっと自信を持って出せるものになりました」

 原作では、サンジが手にするのは紙巻きたばこだが、隼人のアイデアでキセルに変えた。

 「舞台だと紙巻きたばこが見えにくくて、コスプレしてるだけの人になっちゃう。キセルの吸い方、角度も研究しました。でも形だけでもなく、気持ちも入るように。その辺は歌舞伎と似たところがあるんです」

 イナズマ役では、坂東巳之助演じるボン・クレーとの、本水(本物の水)を使った立ち回りが圧巻だ。10トンの水が落ちる中、隼人と巳之助の見せ場が続く。ルフィを演じる市川猿之助が2人に託しただけある。

 「巳之助さんは歌舞伎界で一番仲がいいですけど、負けたくないです。4つ上ですが、あんなに振り幅がある。太い役も細い役もやる。芸風は違いますが、かぶるところはあるんですよね。毎日一緒にやっていて、刺激になるというより、止まってらんない、って思います」

 今は、歌舞伎でも歌舞伎以外でも、自分の世界を広げたいという。

 「いろんなことやらないと、厚みが出ないと思うんです。中身が大事だと思ってます。でも歌舞伎以外の仕事をしても、歌舞伎のためにとか、帰れる場所がある、とは思っていないです。(市川)染五郎さんに、本業でやっている人に失礼だと言われたんです。染五郎さんは『歌舞伎つぶすつもりで頑張れ』って。それくらいの気持ちでやらないと、と思ってます」

 「ワンピース」が終われば、12月は国立劇場「東海道四谷怪談」、1月は「新春浅草歌舞伎」に出演と、休む暇はない。

 「車の運転が気分転換。1人でお台場行ったり」と言うので、デートじゃないんですか? と聞くと「神木隆之介とはデートしますけどね。めちゃくちゃ仲がいいんです」とかわされた。サンジみたいに美女に弱い? としつこく聞くと「美女じゃなくて女性に弱いですね」とにっこり。実際、モテますよね、だってかっこいいじゃないですか? としつこくしつこく聞くと「かっこいいだけ? 片岡仁左衛門さんが人間国宝になった時『二枚目というのは体からにじみ出てくるもの』っておっしゃったんです。その通りだと思いました。だから今は、もっと世界を広げたいんです」。やられた…。いろんな意味で男前だった。【小林千穂】

 ※「ワンピース」は大阪松竹座で来年3月1~25日、博多座で4月2~26日。

 ◆中村隼人(なかむら・はやと) 1993年(平5)11月30日、東京生まれ。中村錦之助の長男。02年2月、歌舞伎座「菅原伝授手習鑑(てならいかがみ) 寺子屋」の松王丸一子小太郎で、初代中村隼人を名乗り初舞台。屋号は萬屋。歌舞伎以外でも活躍し、NHK大河ドラマ「龍馬伝」「八重の桜」にも出演。12月には初めての写真集「HAYATO」(双葉社)発売。