今回は「新春浅草歌舞伎」(26日まで、東京・浅草公会堂)に出演中の中村米吉(22)です。抜群のかわいらしさ、可憐さが魅力的ですが、今月は今までにない大人の女を演じています。やわらかな雰囲気とは反対に、熱い言葉で芝居を語ってくれました。

 スヌーピーのネクタイが目に留まった。

 「母がクリスマスに、父(中村歌六)とおそろいで買ってくれたんです。父とスヌーピーは同い年なんですよ」

 ふわっとした笑みと対照的な役に挑んでいる。「新春浅草歌舞伎」の第1部「与話情浮名横櫛」では、色っぽさ、つやっぽさが魅力のお富を演じている。将来を誓い合った与三郎と離れ離れになり、江戸の商人に囲われて暮らす女性だ。

 「僕と同じくらいの年齢か、もうちょっと上でしょうか。年齢よりも、お富のバックボーン、人間を大事にしようと思っています」

 演じるに当たり、中村時蔵に教わった。

 「時蔵のおじがおっしゃったのは『世話物は、そこに暮らしてるにおいがないと何にもおもしろくないから』と。自然に、段取りにならないように気を付けています」

 たばこを吸ったり、うちわを使ったり、生活の中での行為、しぐさがさまざま出てくる。いかに自然に見せるかが大事なのだという。

 「精いっぱいやるしかないですね。初日の映像は時蔵のおじに見てもらいました。ダメ出しのお電話もいただきました。全部言ったらとても長い時間かかります(笑い)。時蔵のおじに教わったことを丁寧にやっていけば間違いはないと思ってますので、崩れていかないよう、確認しながらやっています」

 いつかまた、という思いもある。

 「2度、3度と務めさせていただきたいので、最初の一歩になれば、と思っています。お役はご縁ですけど、いつか務めさせていただける時にまた、ランクアップしてお見せできればなと思います。昨日より今日、今日より明日です」

 「新春浅草歌舞伎」出演は5年連続。市川猿之助、片岡愛之助、市川海老蔵ら、現在一線を走る先輩たちと出演してきた。昨年から尾上松也が若手を引っ張る立場になり、メンバーの若さが鮮明に。浅草への思いは一層強くなった。

 「昨年、尻上がりにお客さまにたくさん来ていただいて、その勢いで今年も入っていると思うんです。でも、この現状に満足してはいけないんです。3年目も大丈夫だと思っちゃいけない。来年こそ大事だと思っています。一生懸命、がむしゃらにやるのが浅草の魅力。『若さあふれる姿を見てください』というのは簡単です。だって若いんですもん。若さあふれるプラス何か、です。先輩たちもがむしゃらにやってるんですから、僕たちは、よりがむしゃらにやらないといけないんです」

 今はまだ「歌舞伎役者」への途上だと話す。

 「まだまだ『歌舞伎をやっている人』です。先輩方は何をやっても歌舞伎のにおいがあります。けいこ事、舞台での経験、いろいろなものが積み重なって「歌舞伎役者」になれると思うんです。遠い道ですね」

 ◆中村米吉(なかむら・よねきち)1993年(平5)3月8日、東京生まれ。5代目中村歌六の長男。00年7月、歌舞伎座「宇和島騒動」の武右衛門悴武之助で5代目米吉を名乗り初舞台。屋号は播磨屋。昨年は市川染五郎とともにラスベガス公演「鯉つかみ」にも出演した。来月2月は歌舞伎座で「籠釣瓶花街酔醒」に出演する。【小林千穂】