インドを舞台に、前半は5歳のサルーが迷子になってしまうまでを、後半は青年になったサルーが故郷を探し求める過程を描いた。

 子役のサニー・パワールがすばらしかった。演技をしたのは初めてだそうだが、焦りや不安、賢さといったものが瞳に表れ、抑えた声や演技が、かえって反比例するように感情を増幅させている。手を差し伸べたくなる愛くるしさは時に危うい事態にもなるが、それも説得力がある。

 それにしても、約30年前のコルカタ(当時カルカッタ)の混沌(こんとん)ぶりがすさまじい。よく言えば熱気、パワー、したたか。5歳の子が迷い込んだ様子はまるで、大海原に、板の切れ端が浮かんでいるよう。

 今の日本だったら起こらない話だろう。誰かが声を掛けてくれるだろうし、治安も悪くはない。お母さんの名前を聞かれ「母ちゃん」としか言えなくても、住んでいた地域の名前を間違って覚えていたとしても、何かしらの手掛かりできっと家に戻れる。

 しかし、実際に事は起こった。事実は小説より奇なりと言うが、子役とコルカタの映像で、説得力を持たせてくれた。【小林千穂】

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