映画の見方が時代によって左右されるとすれば、ようやくこの作品を楽しむ環境が整ったということか。

魔夜峰央氏が異色の原作コミックを発表したのは82年。タモリ発の造語「ダサイタマ」がはやった頃で、ストレートなディスりは、県民がしゃれと受け流すには厳しすぎたと思う。

「秘密のケンミンショー」(日本テレビ系)が「埼玉いじり」を繰り返し、自虐ネタとして定着した今だからこそ、理不尽な差別に満ちた「翔んだ」設定にもすんなり笑える。

東京都民から迫害を受ける埼玉県民は、通行手形がないと東京に出入りすらできない「もう1つの現代世界」の物語。名門校に通う都知事の息子、百美は頂点から埼玉県民を見下していたが、ひと目ぼれした米国帰りの転校生、麗が実は埼玉出身と知って改心する。

百美は二階堂ふみ、麗はGACKTという配役。高校生、ボーイズラブ…年齢、性別を超えた設定だが、1周回って納得感があるのはそれぞれの演技力と存在感のなせるワザだろう。

麗の裏の顔は埼玉解放戦線の幹部。永遠のライバル千葉県も絡んだ騒乱が巻き起こって…。「合戦」シーンもけっこうなスケールで撮っていて、全力投球のおバカぶりが笑いを誘う。【相原斎】

(このコラムの更新は毎週日曜日です)