小池栄子がはまっている。演じるキヌ子は日頃は大食いの「担ぎ屋」だが、泥だらけの顔を洗えば男が振り向くいい女という設定。デビュー前は胸の大きさがコンプレックスだったという彼女の心情に重なるようで、自分の美しさを鼻にかけない劇中の演技が自然に見える。5年前の舞台版から「当たり役」と言われることに納得する。

原作は太宰治の未完の遺作で、戦後復興期の日本が舞台。何人もの愛人を抱える文芸誌編集長の田島が、身辺整理を決意する。別れを切り出す道具として「妻役」として雇ったのがキヌ子で、このニセ夫婦がクセの強い愛人たちとドタバタを繰り広げる。

太宰が自らを楽天的にそしてかなりコミカルに加工した田島を演じるのが大泉洋で、こちらも好演だ。空疎なようでちらっと知性も光らせる。渇いた笑いの中に得意の人情もにじませる。映画宣伝のためコンビ出演した情報番組での息のあったやりとりが撮影中の信頼関係を映している。

復興期のガヤガヤした空気を織り込み、巧者2人を迎えた成島出監督の演出は緩急がほどよく効いている。安心して見られる「大人の喜劇」だ。

【相原斎】(このコラムの更新は毎週日曜日です)