この先もずっと、その道のプロとして生きていこう。そんな思いとは裏腹に、社会、経済情勢の激しい変化で、なくなっていく職業もある。もし、自分が失職する立場になったらどうするのか? そんなことを深く考えさせられる作品だ。

アテネで父の代から家業として、オーダーメードの高級紳士服を作り続けて36年のニコス。無口で内気な性格の50歳は、店の屋根裏部屋に1人で住んでいる。14歳から修業してきた裁縫の技術は一級品。だが、ギリシャ経済危機の不況で客足が途絶え、父と守ってきた店は銀行に差し押さえられる。

突破口を開こうと手製の屋台を作り、オートバイで「移動仕立て屋」を引っ張って街に出るが、だれも見向きもしない。そんなとき「娘の結婚式用のウエディングドレスは作れる?」の注文。隣家の母娘の後押しも得て、培った技術が生かすことができる新しい世界へ踏み出す。

ギリシャの陽光と青空。エーゲ海沿いの街並みに真っ白なドレスがはためくシーンは美しい。個人ではあらがうことができない大きな時代の波があったとしても、いつだって人生は自分で「新調」できる。【松浦隆司】

(このコラムの更新は毎週日曜日です)