◆クィーン・オブ・ベルサイユ 大富豪の華麗なる転落(米・蘭・英・デンマーク合作)

 「渡る世間は鬼ばかり」の石井ふく子プロデューサーは「ドラマは現実を超えられない」と言う。確かにこのドキュメンタリー映画の「現実」は面白すぎる。

 リゾートマンションの共同所有権を売るビジネスでのし上がったシーゲル夫妻。夫は「ジョージ・ブッシュを大統領にしたのはおれだ」と公言する。低金利政策のうま味で事業を拡大し、フロリダにホワイトハウスの2倍の自宅「ベルサイユ宮殿」の建設に着手する。31歳年下の妻は元ミセス・フロリダ。共に再婚だが、7人の子供をもうけ、仲がいい。妻はマックをほおばりながら高価な美容注射を怠らない。骨董(こっとう)品だらけの部屋が「秘宝館」の体に見えるのは気のせいか。

 豪邸建設を軸に夫妻を追った撮影チームは08年のリーマン・ショックに遭遇。夫妻のバブルは崩壊する。浪費癖の抜けない妻に夫が「無駄な電気は消せ」ときれる場面など、カメラは容赦ない。それでも夫はまっすぐ見据えながら「成功のはずが転落物語になったね」と自虐的に笑う。

 ローレン・グリーンフィールド監督は決して口にしないが、作家にとっては夢のような展開だったろう。【相原斎】

(このコラムの更新は毎週日曜日です)