先日、ちょっと「地獄」をのぞいてきました。

 大阪市平野区のJR平野駅を降りて、南へ向かうと、古い街並みが続きます。その一角にある全興寺(せんこうじ)。ネット上では「地獄」の恐怖を体験できる「珍スポット」として話題になっています。

 西の山門をくぐると、話題の「地獄堂」があります。薄暗い堂内に足を踏み入れると、真っ赤な顔でにらみつける閻魔(えんま)大王、隣には高さ2メートル超の3つ目の鬼が仁王立ち。閻魔大王の前のドラをたたくと、壁の鏡に地獄の映像が流れ始めました。

 「人をだますと釜ゆでに、悪口告げ口は針の山で串刺し、盗みをした者は火あぶりに…」。低い声のアナウンスとともに地獄の責め苦にもだえる人々の苦悶(くもん)の表情の絵図が…。大人でも逃げ出したくなります。

 「仏教の教えを体で感じ、悪いことはダメだと理屈ではなく感覚で分かってほしかった」と話すのは川口良仁住職(70)。江戸時代からあった堂を1989年に地獄堂に改装。子どもたちには、悪いことをしないこと、命の大切さを伝えたかったそうです。

 地獄堂の入り口には押しボタン式の「極楽度・地獄度チェック」があり、二択の10問に答えると、極楽行きか地獄に落ちるかを判定してくれます。

 「A…感謝して真剣に努力する」「B…絶えず不平不満が多い」、「A…何事も良いほうに考える」「B…すぐに腹を立て、人に迷惑をかける」、「A…恥を知り、恩を大切にする」「B…欲が深く、うぬぼれが強い」……。

 約1300年前、聖徳太子が建立したとされる歴史のあるお寺ですが、「おもろいてら」をコンセプトに工夫をこらした施設にしたのは「お寺だからと言って構えずに、遊び心の延長で仏の教えに接してほしかった」からだそう。

 せっかくです。10問に挑戦してみました。結果は最高判定「極楽行き太鼓判」の一歩手前の「極楽行き合格」。まあ、日頃からええ行いをしてるからでしょうか。

 「その判定はウソですな」と川口住職。「地獄も極楽も心の中にあります。人間には怒り、欲望の心といった地獄の心と、感謝、反省などの極楽の心が同時に存在します。地獄も極楽の心も瞬時、瞬時で入れ替わるもの。判定がよすぎた人には『あなたは自分自身の心と真剣に向き合っていない』と伝えます」。ちょっとだけ「地獄」をのぞくつもりでしたが、がっつりと心の中をのぞかれてしまいました。【松浦隆司】(ニッカンスポーツ・コム/コラム「ナニワのベテラン走る~ミナミヘキタヘ」)

地獄堂の入り口(撮影・松浦隆司)
地獄堂の入り口(撮影・松浦隆司)
地獄堂の内部には仁王立ちの鬼(撮影・松浦隆司)
地獄堂の内部には仁王立ちの鬼(撮影・松浦隆司)
地獄堂の壁の鏡に流れる地獄の映像(撮影・松浦隆司)
地獄堂の壁の鏡に流れる地獄の映像(撮影・松浦隆司)
地獄堂の入り口にある押しボタン式の「極楽度・地獄度チェック」(撮影・松浦隆司)
地獄堂の入り口にある押しボタン式の「極楽度・地獄度チェック」(撮影・松浦隆司)