デビュー以来、29連勝中の最年少プロ棋士、藤井聡太四段(14)はなぜ強いのか? 隙のない将棋など技術的な指摘もありますが、小学1年の冬、藤井少年と出会った師匠の杉本昌隆七段(48)は「この子は……」と絶句しました。7歳にして、しっかりとした「信念」を持っていたからです。

 将棋を本格的にやりたい子どもが集まる東海研修会。小学校高学年から高校生までの約30人が集まる中、当時小学1年の藤井少年も参加していました。小学校低学年は珍しく、とりわけ目立っていました。

 杉本七段は初めて出会ったときを振り返ります。「小さいことでも目にとまりましたが、なんと言っても話していた内容に驚きました。上級生とある局面について検討していたのですが、そのときに『そこに歩を打たないと勝ち目がない』と相手の子に持論をぶつけていたのです」。

 2人が検討していた場面は二択。1つは「無難な守りの手」、もう1つは「リスクの高い守りの手」。杉本七段は「ほとんどの子は何も考えずに『無難な手』を選びますが、藤井の場合はあえて『リスクの高い手』を選んで、自分の言葉でしっかりと説明していました」。当時7歳。しかもその言葉に歴戦のプロ棋士のような「信念」があったといいます。

 「勝ち目がない」-。杉本七段は「小学1年生でそういう表現する子も珍しいのですが、言っている内容はプロが見てもその通り。違う場所に歩を打っているようではダメな場面だった。小学1年でその感覚を身につけている子は珍しい」。最も印象深かったのは「『勝ち目がない』という言葉でした。中学生が言っているのなら何も驚かないのですが、その短い言葉に信念を感じました」。勝負師としてリスクを背負ってでも勝つための最善の手を選択する。勝負の極意とも言える感性を小学1年のときにはすでに身につけていました。

 その後、藤井四段は小学4年で杉本七段に弟子入り。プロになってからもその「信念」にぶれはないようです。大事な局面で次の一手を決断するとき「この将棋はこの手を指さないとだめだという固い信念を持っているように思う」と杉本七段。

 無難にいくのではなく、リスクを背負っても「信念の一手」を打つ。まだ14歳の中学生3年生ですが、勝負師の資質を持っているかどうか。それは年齢とはまったく関係がないようです。【松浦隆司】(ニッカンスポーツ・コム/コラム「ナニワのベテラン走る~ミナミヘキタヘ」)