宝塚歌劇団宙組トップスターの朝夏(あさか)まなとが9月25日、兵庫・宝塚大劇場で、サヨナラ公演「神々の土地」「クラシカル・ビジュー」の千秋楽を迎え、本拠地から巣立った。すみれ色に包まれたタカラヅカのルールは、退団時にも存在する。

 退団者が最後、「(所属の)組から」と、「同期から」と言われ、贈られる花。実はこれ、退団者側が自ら“用意”する。14年12月、本拠地を退団した前宙組トップ凰稀(おうき)かなめは、赤いカラーを手に、大劇場の舞台から別れを告げた。

 トップスターはサヨナラショー、退団あいさつの後、記者会見を行い、その後、ファンが花道を作って待つパレードへ向かう。最後のあいさつ衣装に、前代未聞の白の軍服を選んだ凰稀は、会見で、装いに似合う花として「どうしても赤いカラーがよかった。必死に探したんです」と話した。

 贈ってもらう花は、贈られる側の人間が探す。美意識に強いこだわりを持つタカラジェンヌは、花と衣装のバランス、自身のイメージを完璧に作り上げているだけに、最後まで一切、妥協はない。もちろん、トップ本人が花屋を回るわけではなく、スター個々に結成される「会」と呼ばれる“私設ファンクラブ”スタッフが奔走するわけだ。

 先日、退団した朝夏は、衣装を男役の象徴・黒えんびにし、赤いバラを選んだ。「黒に赤、下級生時代に見た先輩の退団時の装いがかっこよくて、自分もいつか-と思っていた」と話した。退団、卒業=白、の認識が強く、一般的にはトップが持つ花は、白の蘭が多いのだが、朝夏もここでこだわりを見せた。

 なぜ、トップは蘭が多いかといえば、それは値段だという。トップの退団時には、複数の退団者が出る。肩書を持たずに退団する場合、トップと同時だと、サヨナラショーの中で場面をもらえ、スポットライトを浴びることもあるから。

 そして、その退団者はトップコンビ以外は、学年順にあいさつするのだが、原則として上級生より高価な花は持てない。そうすると、頂点のトップが安価な花を持った場合、最下級生では持つ花がなくなってしまうのだ。そのため、下級生が花を選びやすいように、トップは高価な蘭の花を選ぶケースが多くなる。

 ただし、凰稀のカラー、朝夏のバラのように、そう高価ではないが、こだわりで選んだ場合は、下級生に「私の花(の高低)は気にしなくていい」と伝えることになる。そうしないと、上級生絶対上位の宝塚では、花が選べなくなる。退団時にスターが持っている花ひとつ、裏には多様なドラマがある。【村上久美子】(ニッカンスポーツ・コム/コラム「ナニワのベテラン走る~ミナミヘキタヘ」)

下級生時代にあこがれた黒えんび姿に赤いバラを手にし、あいさつをする朝夏まなと(撮影・村上久美子)
下級生時代にあこがれた黒えんび姿に赤いバラを手にし、あいさつをする朝夏まなと(撮影・村上久美子)