シリアスからコメディーまで演じ分ける若手として、近年頭角を現してきたのが女優小芝風花(23)だ。放送中のテレビ朝日系主演ドラマ「妖怪シェアハウス」(土曜午後11時15分)で、妖怪たちとの共同生活にもまれながら気弱な自分の殻を破る主人公、目黒澪をいきいきと演じている。常に明るく、謙虚で誠実。出演作が途切れない理由は、周囲への感謝を絶やさない人柄にありそうだ。

★中村倫也の言葉で

話しながらころころと変わる表情は、見ているこちらを楽しくさせる。とっぴな世界観も、感情豊かな小芝にはまりそうだ。

「『妖怪』と『シェアハウス』ってどういう感じなんだろうと思ったけど、キャラクターがみんな面白くて。本当はこうなのよ、っていう伝承とは違う設定も面白いし、みんな現代の職について人間として暮らしているというのも面白い。お芝居が楽しみでした」

恋も仕事も失いどん底に落ちた主人公が、おせっかいな妖怪たちに助けられ成長していく。濃厚キャラとのかけ合いも見どころだ。

「皆さん個性的な妖怪を個性的に演じてくださっていて、『このせりふ、そういう感じなんだ!』とすごく新鮮な気持ちで演じています。撮影していて、めちゃくちゃ楽しいです」

コメディー要素が強いのかと聞くと、「って思うじゃないですか」といたずらっぽく笑う。

「ちゃんとホラー要素がいっぱいあって、妖怪化した後は本当におどろおどろしい、怖い演出になってます。ホラーとコメディーが掛け合わさってます」

コロナ禍の撮影で、本番以外は常にフェースシールドを着用。苦労も多いが、日本テレビ系ドラマ「美食探偵 明智五郎」で共演した中村倫也(33)の言葉が印象に残っている。

「(フェースシールドは)すごく視界が悪くてクリアじゃないんですけど、『だからこそ本番は新鮮な気持ちで演技ができる』と。そうやって受け入れていくという話を聞いてちょっとふに落ちて。私も新鮮な気持ちで『妖怪シェアハウス』に臨もうと思ってます」

昨年は出演ドラマが8本放送。隠れオタク女子をコミカルに描いたNHK「トクサツガガガ」、メディアの誤報を題材にした社会派作品「歪んだ波紋」など幅広く出演した。「楽しい作品が続くと、重い作品がやりたくなる」と話す根っからの女優だ。

「去年は(役で)ラッパーになったり漫才師になったり、楽しかったです。下半期は誤報によって疑われる役や、首都直下型地震が来たらというシリアスな作品をやらせていただいて。台本を読むだけで気分がずーんって重くなるんですけど、真摯(しんし)に向き合わなきゃいけない気持ちの重みも経験できました。作品は全部違うので演じ分けと言われると難しいんですけど、その作品に合わせた役を演じられたらいいなと思うんです」

コメディーでは“変顔”もいとわない。そもそも意識していないようだ。

「全力で反応したら監督が笑ってくださることが多くて。ただ普通にびっくりしているだけのつもりなんですけど、『目、ひんむいてたよ』って。そんな顔してたんだ、みたいな(笑い)。だから顔が崩れることにそんなに抵抗はないみたいです」

★フィギュアに熱中

11年、所属事務所の先輩、武井咲の妹キャラクターを選ぶオーディションで芸能界入り。小学3年からフィギュアスケートに打ち込み、リンクを滑る浅田真央さんのCMにあこがれた。何げなく「こういうCMに出てみたい」と口にしたことを姉が覚えており、母親にも秘密で応募した。

「フィギュアの大会用に宣材写真を撮っていたんです。オーディションの書類って規定の大きさの写真を貼って出さないといけないんですけど、だいぶ小さいその写真を貼って出したので、受かるわけないと思ってたんです(笑い)」

「絶対落ちるから」という姉の言葉に反し、グランプリを獲得。翌月には上京した。演技、MC、ウオーキングなど週6日のレッスンが始まると、スケートとの両立が困難になった。

「どっちか1本に絞っても難しい世界なのに、器用でもない私に両立はできない。せっかく選んでいただいたんだからって、芸能界を選んだんです」

スケートありきの将来を描いていたが、選考の中で気持ちが固まった。責任感の強さが見える。

「3万5000人の中から選んでくださったんです。みんな芸能界に入りたかったり、自分の夢があってオーディションを受けていて。1次、2次と受かっていくうちに、その中で選んでいただいたんだから頑張らないと、頑張りたいって素直に思いました」

タレントやアイドルなどの選択肢もある中、女優の道に進んだ。

「フィギュアも表現するスポーツで、多分一番近かったのが女優さんだったのかな。選択肢はいっぱいあるけど、女優さんしかイメージが湧かなかったです」

★人と話すの大好き

来年芸能活動10周年を迎える。デビュー以来絶えることなくドラマ、映画に出演してきた。

「事務所に入って半年でドラマでデビューさせていただいて。そこから1年間全く仕事がないという状況がないくらい作品や役柄をいただいて、すごく恵まれてます」

スケート漬けでドラマを見ないまま演じる側になった。順風満帆に見えても、悩みは尽きなかった。

「芸能界? お芝居ってどうするんだ? から始まっているので分からないことだらけだったし、同じ仕事がないから慣れることがしばらく難しくて。いつどうなるか分からない仕事だし、周りの同年代の子がやっている役を見てうらやましいと思ったこともあります。何で私はできないんだろうとか、どうやったらオーディションに受かるかも分からないし」

大卒なら今年社会に出る年齢だ。進路に悩む地元の友人の話を聞き、仕事について考える年でもあった。

「私は14歳の時にやりたい仕事が決まって、それを今楽しくできている。『夢を取るか現実か』という話を聞いていると、やりたいことが10代からできているってすごいなと思って。すごく感謝してます」

明るく話すが、元来、人見知りで、あがり症。国語の授業で教科書を読み上げることさえ「大の苦手」だったが、表現の仕事でいきいきとしている。

「今は人とお話しするの大好きなんです(笑い)。今9年目ですけど、振り返ると、ここまで早かったなって。いろいろあったけど、楽しいお仕事につけてうれしいです」

話を聞いた後、写真撮影のためにメーク直しする小芝が「いいですか?」と声を掛けてきた。インタビューでは考えがまとまらなかった部分を補足したいという。

「苦しいこともあったんですけど、10代の時にお仕事させていただいた方から20歳を越えてまたお声を掛けていただくことが増えたんです。頑張ったら見てくれている人がいる。20歳を越えてからつながりが見えてきて、それがうれしいです」

リップを塗り直してもらいながら答えてくれた小芝に「メーク中に対応してくれた方は初めてです」と感謝すると、「あははは!」と大きな声で笑った。

演技力はもとより、この誠実な人柄が愛される理由だろう。【遠藤尚子】

▼ドラマを手掛けるテレビ朝日飯田サヤカプロデューサー

不思議な人です。演技に手を抜かず、努力や工夫を惜しまず、思い切りがよく、いつもはつらつとした笑顔で周囲の人への気遣いも100%、誰もが小芝さんの年上なのに、一番小芝さんがしっかりしているから、みんな彼女の人格を尊敬しています。なのに、小芝さんはお芝居で食べなくちゃいけない虫にギャーと叫んで逃げ回ったり、怖い話をキラッキラの瞳で聞いてたり、さっきまで笑ってたと思ったら2秒後には居眠りしていたり、「大人の小芝」からふとした瞬間、突然「子供の小芝」が顔を出すのです。

◆小芝風花(こしば・ふうか)

1997年(平9)4月16日、大阪府生まれ。11年「ガールズオーディション2011」でグランプリ受賞。12年フジテレビ系ドラマ「息もできない夏」で女優デビュー。14年、初主演映画「魔女の宅急便」でブルーリボン賞新人賞受賞。ドラマは16年NHK「あさが来た」、19年同「トクサツガガガ」など。特技はフィギュアスケート。155センチ。血液型A。

◆「妖怪シェアハウス」

妖怪たちとのシェアハウス暮らしで主人公の目黒澪(小芝)が成長していくストーリー。妖怪は役者が特殊メークを施し、お岩さんを松本まりか、酒呑童子を毎熊克哉、座敷童子を池谷のぶえ、ぬらりひょんを大倉孝二が演じる。

(2020年8月2日本紙掲載)