劇団理事で専科スターの轟悠(とどろき・ゆう)が、福岡・博多座で上演中の月組公演「長崎しぐれ坂」「カルーセル輪舞曲(ロンド)」に出演し、珠城(たまき)りょう、愛希(まなき)れいかの同組トップコンビと共演している。熊本県出身で震災から1年。再建への寄付もしたという熊本城を「男性の理想像」といい、博多で長崎作品を上演。九州ずくめの中で男役の生きた教材・轟が神髄を発揮している。27日まで。

 「熊本城みたいな男が現れたら…。むっちゃ格好いい。あこがれですね」

 雪組トップを経て、02年に故春日野八千代さんの後継として専科へ移り、現在は理事も務める男役の中の男役。生きた教材でもあるスターから意外な発言だ。

 「武者返しが好き。(地震で石垣などが崩れた)熊本城に寄付もしました。黒壁が格好よくて、大好き。よく絵に描きましたね」

 熊本県出身で実家の墓は福岡にあり、九州愛にあふれる。長崎を舞台にした今作は、05年に湖月(こづき)わたる率いる星組で初演され、12年ぶりの再演。境遇が一変した幼なじみの男女3人が再会し、起こる愛憎劇を江戸末期の長崎を舞台に描く。轟は初演時と同じ役柄に臨んでいる。

 「えとをひとまわりして、まさか! ですよね。熊本出身の私が福岡で、長崎ものをやる(笑い)。初演は(当時の星組娘役トップ)檀れいさんのサヨナラ公演でもあった。男同士の関係も濃い、人情物で思いを入れて演じましたね」

 轟は大名家を荒らし回る逃亡犯、珠城が轟を追う立場に、愛希は家の没落で芸者に身を落とす設定だ。

 「ちゃぴ(愛希)ちゃんは(トップ娘役が長く)経験値がある。りょう君(珠城)とは初めて。とても心優しい人だと感じました。男の友情、人情ものですので、湖月さんのようにハートの温かい演者であってほしいと思っていたので、りょう君もそうだなと。(珠城の)体格も(湖月と同じく)大変、いいので私を包み込んでくれます」

 若いが、男らしい風格が備わる珠城とは信頼関係が築けた。その珠城のトップ3作目で、初共演する巡り合わせ。轟は今回、演出の植田紳爾氏から「(下級生の)指導も含めてお願い」と頼まれていた。

 「トップになりたてで不安な時期から、組を守ろうと転換期に差し掛かるところ。私もできる限りのことを教えたい。いい素材の舞台人ですので」

 今回は地元公演のため、久々にショーにも出演。轟のために新たに加えられたスペインの場面がある。

 「自分から『もう、ショーは出ません』って言っていたんですけど、今回は九州公演なので。既に完成している作品に新場面がうまく溶け込めるように。ショーに出るのは久々ですけど、緊張はないです(笑い)。楽しい面々の中で、楽しくやりたい」

 雪組への異動を控える伸び盛りの朝美絢(あさみ・じゅん)らと絡み、ダンスでも、男役の手本としての姿を見せている。【村上久美子】

 ◆宝塚ミュージカル・ロマン「長崎しぐれ坂」~榎本滋民作「江戸無宿」より~(脚色・演出=植田紳爾氏) 05年に轟悠、湖月わたる、檀れいらによって、星組で初演。江戸末期の長崎を舞台に、時を経て再会した幼なじみの男女3人の愛憎劇を描く。神田祭り、精霊流しなどの舞踊場面も織り交ぜられている。

 ◆モン・パリ誕生90周年レヴューロマン「カルーセル輪舞曲(ロンド)」(作・演出=稲葉太地氏) 日本初のレビュー誕生から90周年の記念作で、今年1月に珠城の本拠地お披露目作で上演。パリから宝塚を目指して世界をめぐるバラエティー・ショー。

 ☆轟悠(とどろき・ゆう)8月11日、熊本県生まれ。85年初舞台。97年雪組トップ。02年に故春日野八千代さんの後継として専科へ、03年から理事。00年「凱旋門」で文化庁芸術祭優秀賞、02年「風と共に去りぬ」で菊田一夫演劇賞。一昨年はギリシャ悲劇「オイディプス王」、昨年は元宙組トップ娘役実咲凜音を相手役に迎えた「双頭の鷲」など2作に主演。趣味は油彩画、デッサン画。168センチ。愛称「トム」「イシサン」。

壁に手をつきポーズを決める轟悠(撮影・伊藤航)
壁に手をつきポーズを決める轟悠(撮影・伊藤航)
博多座で行われる舞台での役柄について話す轟悠(撮影・伊藤航)
博多座で行われる舞台での役柄について話す轟悠(撮影・伊藤航)