オーディション番組。突然の再ブームである。最初のブームは、モーニング娘やCHEMISTRYを輩出したテレビ東京のオーディション番組「ASAYAN」。その後、さまざまなオーディションは行われているが、その裏側をきちんと扱った番組はそこまでないと記憶する(LDHは近いですが)。

特徴は、素人だった応募者がオーディションを通して成長していく姿をみることができ、視聴者はファンというより親の感覚で応援していくことになる。代表格はNiziU。日韓合同のグローバルオーディションプロジェクトから出てきた女性9人組。配信サイト(HuluやYouTube)をうまく利用し、ダイジェスト版を日本テレビ系「スッキリ」で放送するなどとにかく露出が多かった。

韓国のエンタメが入っていることもあり、その歌とダンスのレベルの高さに驚いた人は多いと思う。他にも、AAAのSKY-HIが自腹で1億円以上投じたボーイズグループ発掘オーディション「THE FIRST」。ここからはBE:FIRSTがデビュー、クラウドファンディングで4・5億を集めるなど、デビュー前から圧倒的な話題を集めた。

そして極めつけは韓国の人気オーディション番組「PRODUCE101」の日本版から出てきたJO1。吉本興業も運営に関わっていることもあり、歌とダンスのクオリティーと共にバラエティー番組に出演するなど、時代の寵児(ちょうじ)といっていいのではなかろうか。

彼ら彼女らの最大の強みは、甲子園のように短期間の勝ち残り式トーナメントで勝ち抜いてきたことである。デビューできるか、できないか、そんなヒリヒリした環境は人生においてそこまで多くはないだろう。 そこで今回紹介したいのは「PRODUCE101JAPAN」から派生したグループ、円神に所属するA.rik(28)。6000人の中から101人に選ばれ、最終順位は28位。JO1としてはデビューできなかったが、同じく元練習生9人による舞台プロジェクト、円神に参加。今月にはファーストアルバムを発売、グループとして順調にキャリアを重ねる。

そんな彼と出会ったのは、先月演出した舞台「ハイスクール・ハイ・ライフ」、もちろん俳優として。稽古では、同じく円神のメンバーの山田恭と仲むつまじく、独特な雰囲気を漂わせながらも他のメンバーとも徐々に打ち解けていった。 最初は見た目のかわいらしさから多少頼りなさそうに見えていたが、芝居に対する思いが人一倍強く、またダンスパートではノートにぎっしり書いたフォーメーションを提案してきてくれた。最初はアウェー感があったのかよそよそしい感じだったが、本番が始まるとスタッフの控室にも頻繁に顔を出し、会話をすることも多くなった。

終わった後も次の舞台に誘ってくれるなど、ひとつひとつのチャンスを大切にするその姿勢に改めて感心した。しばらくぶりにサッカーに例えると、高校やユースからプロには上がれなかったが、大学を経てさらに成長して再チャレンジするタイプだろうか。俳優としてのオーディションは始まったばかり、さらなる高みに向けて頑張って欲しい。

◆谷健二(たに・けんじ)1976年(昭51)、京都府出身。大学でデザインを専攻後、映画の世界を夢見て上京。多数の自主映画に携わる。その後、広告代理店に勤め、約9年間自動車会社のウェブマーケティングを担当。14年に映画「リュウセイ」の監督を機にフリーに。映画以外にもCMやドラマ、舞台演出に映画本の出版など多岐にわたって活動中。今年は2月に演出舞台「政見放送」を上演、5月20日には最新監督映画「さよならグッド・バイ」が公開された。8月10日から14日までは演出舞台「ハイスクール・ハイ・ライフ」を上演。カレー好きが高じて青山でカレー&バーも経営している。

(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画監督・谷健二の俳優研究所」)