肩書。若い頃実力さえあれば何とかなると考えていたが、フリーターを経て25歳で就職活動をした際に社会の厳しさを思い知ることになる。有名大学出身でもなく、たいした資格もなかったので、当たり前のように書類選考でいくつも落ちた。例えどんなに実力があっても(今思えばただの慢心ですが笑)、スタートラインにすら立てないことに気付かされた苦い思い出である。

芸能界での肩書といえば、ホリプロタレントスカウトキャラバンやジュノン・スーパーボーイ・コンテスト出身や、朝ドラ、大河などの話題作への出演、さらには映画祭などで俳優賞をとることができれば数年は仕事が続くであろう。小さな事務所やフリーであれば、きっかけとなる肝心のオーディション情報すら回ってこない。まさにスタートラインに立てない状態が何年も続く。

そこで今回紹介するのは、現在放映中のドラマ「フェルマーの料理」で主演を務める高橋文哉。男子高生ミスターコン2017にて1万人の応募者の中からグランプリに選ばれ、その後人気リアリティー番組「太陽とオオカミくんには騙されない」を経て、特撮テレビドラマ「仮面ライダーゼロワン」にて主演。ミスターコングランプリ、リアリティー番組出演、仮面ライダー主演とデビューして数年で、キャスティングに引きのある肩書をこれでもかと獲得する。

その後、人気ドラマに映画と出演が続き、インスタグラムのフォロワー数も230万人を超え、20代前半でもっとも勢いのある俳優となる。恒例のサッカーに例えると高校3冠(インターハイ、高円宮杯、選手権)した後、ルーキーで強豪チームに入団。1年目から活躍しシーズンオフには新人賞を総なめ、さらには日本代表の合宿に呼ばれ、海外移籍も秒読みといったところだろうか。

さて肝心の実力だが、今回ドラマで初めてきちんと演技を見た。物語での中では新米シェフを演じるが、高橋自体、3兄弟の末っ子として育ったこともあり、その愛嬌(あいきょう)たっぷりの表情で先輩方に愛される役が似合っている。また、常にチャレンジするそのひたむきな姿も好印象である。与えられた役を丁寧に手堅く演じている印象を受けた。

そこで特筆すべきなのは、その後メインシェフになり、かつての先輩たちに料理の指示を出す描写がいくつかある。新米シェフの時と比べその姿は鬼気迫り、ネットでは闇落ちなどと話題になっていたが、これがまたいい。愛される末っ子とは対照的なオラついているキャラもしっかりと演じている。そう、このギャップにハマる人めちゃくちゃいるなと感じた。

連ドラ主演という肩書を得た彼が次はどこへ向かうのだろう。今後の活躍に期待です。

◆谷健二(たに・けんじ)1976年(昭51)、京都府出身。大学でデザインを専攻後、映画の世界を夢見て上京。多数の自主映画に携わる。その後、広告代理店に勤め、約9年間自動車会社のウェブマーケティングを担当。14年に映画「リュウセイ」の監督を機にフリーとなる。映画以外にもCMやドラマ、舞台演出に映画本の出版など多岐にわたって活動中。また、カレー好きが高じて南青山でカレー&バーも経営している。直近では映画「その恋、自販機で買えますか?」「映画 政見放送」が公開。