24日に放送されたNHK大河ドラマ「おんな城主 直虎」38話で、井伊直虎(柴咲コウ)との別れを選んだ龍雲丸(柳楽優弥)の言葉です。16話で盗賊団のかしらとして登場して以来、政次(高橋一生)とは違うやり方で直虎を支えてきたアツい男。この人らしい荒っぽい愛情をどっさり注ぎ込んだお別れに、いい男だったなあと胸がいっぱいです。

 井伊家消滅後、直虎に“プロポーズ”して一緒に暮らしてきた彼ですが、自分と第2の人生を歩んでも直虎は輝かないことを知っている賢い人。あえて「ばばあ」と突き放したのに、突き放したままでおけないのが政次との違いで「城や家がなくてもあんたはここの城主なんだよ。根っからそうなってんだよ」。根っから、と話を単純化して直虎を救ってやれるのは登場人物の中でも彼だけ。政次とは違うストレートな愛情表現に見入りました。

 直虎から「今行かなければ、ともに生きることなどできない」と泣かれて、それで十分だったんでしょうね。たまらず抱き締める横顔がどんどん大人びて、「待ってっから」と言い聞かせる穏やかな笑顔が頼もしいこと。「それではまこと、ば、ばばあに…」とわんわん泣く直虎に「案ずるな、その時は俺もじじいだ」。面白いやら悲しいやら、これも忘れられない直虎名場面になりました。

 勝手な「ベルばら」解釈でいうと、女城主の直虎がオスカル、その幼なじみで身分違いの恋を貫いた政次がアンドレ。龍雲丸は、荒くれ者集団の衛兵隊を束ねるアラン。端正なアンドレとは対照的な野性的な魅力があり、武家の出身でありながらワケあって今の境遇にある背景も共通していて、政次処刑とは別の喪失感があります。政次は「かような領主がほかのどこにおられますか」と愛情を向けたのに対し、龍雲丸は「あんたみてえな女がほかにいるかよ」。直虎を見る角度こそ対極でしたが、行き着く先は直虎への信頼と感じました。

 龍雲丸登場に先立って行われた取材会での柳楽君の印象も、ストレートで気持ちのいい龍雲丸のままでした。「こんな話し方してますけどだいぶうれしい」「悪気はないんで、ちょっとうまく書いといてください」と屈託なく、終了後はむしろ男性記者たちが「こんな自然体のいいやつだとは」と騒然としたほどです。

 もっと言えば、04年に主演映画「誰も知らない」(是枝裕和監督)でカンヌ映画祭男優賞を史上最年少の14歳で受賞した時の印象そのまま。当時、都内で受賞会見を行いましたが、ド緊張の一方で「良かったね、と言われている俺は一体誰なんだって感じです」。ぼやっと人を和ませるキャラクターはこの時も変わっていませんでした。

 受賞から4年後に体調を崩して休養しており、取材会では当時のこともオープンに語っています。「10代後半になってくると、この人もこの賞をとっていたんだという人たちがすごすぎて、俺はこのクオリティーのことしかできなくていいのかとムダに比べてしまった。比べる必要もないのに」「プレッシャーにしっかり潰されましたね。ぐしゃっと」。

 そう笑って話せるまでにどれだけの苦労があったかと思いますが、挫折や運命と折り合いをつけながら生きてきた龍雲丸が生き生きと立ち上がったのも事実。物語の世界観をダイナミックに広げてくれて、大河の架空キャラはこうでなくてはという痛快さでした。

 で、龍雲丸と入れ替わるように、井伊家のプリンス、菅田将暉(井伊直政)が登場。三浦春馬、高橋一生、柳楽優弥、菅田将暉というイケメンリレーに抜かりがなく、「直虎」さすがです。

【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「B面★梅ちゃんねる」)