ギャラが安くても、出たがる俳優、クリエイターでにぎわう異色のドラマ枠がある。テレビ東京深夜の「ドラマ24」(金曜深夜0時12分)で、新作が発表されるたびに、低予算枠とは思えない豪華キャストや、他ジャンルからの演出家の参戦が話題になる。最新作「不便な便利屋」(10日スタート)も、主演岡田将生をはじめ、大泉洋ら人気俳優がゲスト出演者にラインアップされる豪華版だ。枠の創設から10年、視聴率とは別の次元で存在感を示している。

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 10年前、キャバ嬢を描いた「嬢王」でスタートした「ドラマ24」は、「湯けむりスナイパー」(09年)「モテキ」(10年)など多くのヒット作を生んだテレ東の名物枠として知られる。お色気路線から本格SFまで、ジャンルにこだわらない自由度が特徴で、この枠なら何かやれそうだと、クリエイター魂に火が付く枠でもあるようだ。“ド深夜”とあって、視聴率は2%前後で推移することが多いが、この1年だけでも、映画監督岩井俊二氏の「なぞの転校生」や、演劇界の鬼才、ケラリーノ・サンドロヴィッチ氏の「怪奇恋愛作戦」など、他ジャンルの一流どころがこの枠で連ドラに初参戦している。

 最新作「不便な便利屋」の浅野太プロデューサー(40)は、枠について「視聴率より、どれだけ攻めたかというプレッシャーの方が大きい枠」と話す。同作では、北海道が生んだ人気バラエティー番組「水曜どうでしょう」を手掛けた鈴井貴之氏を初連ドラに担ぎ出した。浅野氏は「大学が北海道だったので、いつか北海道を舞台にしたドラマを作りたいと思っていて。北海道なら鈴井さん以外ないとお願いしたら『ドラマ24』の枠ならやると言ってくださった。あれこれ仕掛けてくる鈴井さんの感覚が連ドラになったら、見たこともないものになるとわくわくしましたね」。

 実際、1話を見たところ、交通アクシデントや、除雪でまさかのものを掘り出してしまう展開など、雪深い北海道ならではの日常がぐいぐいストーリーを引っ張る、ローカル上等な面白さ。吹雪の夜に迷い込んで便利屋を手伝うことになった主演岡田将生に雪まみれの災難がよく似合い、バカバカしさと人のぬくもりが染みる味わいになっている。鈴井氏らしいバラエティーの手法が反映されることもあり、雪だるま作りのギネス世界記録にも挑戦したという。浅野氏は「鈴井さんには常識を覆すことをやってほしかったので、『ギネスやる』と言われた時は、そう来たか、さすがたなと。挑戦が、この枠ならではのいいストーリーになっているんですよ」。

 作家や制作サイドが思い切ったことをやるチャレンジングな枠、という実績に、自然と俳優陣も集まる。ここ数年を見ても、瑛太、松田龍平、山田孝之、オダギリジョーら「月9」級の売れっ子が続々と出演。昨年の「アオイホノオ」では、柳楽優弥が連ドラ初主演作にこの枠を選んだほか、先ごろの「怪奇恋愛作戦」では、仲村トオル、小沢征悦ら売れっ子が脇に山ほどいて話題になった。「湯けむりスナイパー」(09年)の遠藤憲一のように、この枠でブレークした人気者も多い。現在、NHK朝ドラ「まれ」に主演している土屋太鳳もこの枠の「リミット」(13年)で人気を集めた。

 「不便な便利屋」も、岡田のほか、時任三郎、小日向文世、鈴木福など豪華な顔触れがそろった。浅野氏は「テレ東なので、びっくりするほど申し訳ないギャラでやっていただいている。岡田君も『出たい』と言ってくれて、豪華なゲスト出演の人たちも、ほとんど友情出演です」。「水曜どうでしょう」出身の大泉洋ら人気俳優5人で構成する演劇ユニット「TEAM NACS」の全メンバーがゲスト出演することも発表された。

 ギャラ度外視で人気俳優が集まる現状について、浅野氏は「ほかにないものを攻めてやっていく自由度を、演出の人たちと同様、役者の皆さんも面白がってくれているのだと思う」。テレ東の深夜、という視聴率フリーなスペシャル感も、挑戦しやすい背景になっている。昨年「リバーズエッジ 大川端探偵社」に主演したオダギリジョーは、制作発表で「民放ですごい低視聴率をとって、ゴールデンはもう嫌。好みに合う作品ができるのは深夜枠」と、俳優側からの魅力を語っている。浅野氏は「最近はこの枠も『視聴率をとれ』というプレッシャーがすごい」と頭をかきながらも「まずはこの枠にみんな遊びに来てほしいんです。集まった人たちが思い切ったことをやれる環境を整えるのが、この枠のプロデューサーの仕事」。

 ちなみに、10年の歴史がある「ドラマ24」の枠だが、企画会議は「3回くらいしか記憶にない」という。プロデューサーのローテーションも決まっていない。まとめ役の元に企画が集まり、面白いもの、コンテンツビジネスに展開しやすいものなどのハードルをクリアしたものからドラマ化を勝ち取っていくという。まず企画があり、イメージに合う俳優を打診していくのがテレ東流。売れっ子の1年先のスケジュールを押さえてから企画を立てる他局とは異なるポイントだ。浅野氏は「役者さんが先に決まってしまうと、この企画は無理とか、この職業の役はやれないとか、いろいろ出てきて何をやっていいのか分からなくなりそうで」。低予算ならではのやり方が俳優のチャレンジ精神をつかみ、ひとつのジャンルを築いている。

【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)