「第23回橋田賞」「第3回市川森一脚本賞」が相次いで発表された。両会場に共通しているのは、圧倒的な「若手不在」の光景だった。橋田賞を盛り上げたのは脚本界のレジェンドたちで、新人脚本賞の入選作は該当なし。新進脚本家に向けた市川森一脚本賞も、賞創設3年で早くも本賞なしというピンチに立った。背景には、新人の出る幕が激減する制作現場の現状があるという。

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 市川森一脚本賞は、フジテレビ「素敵な選TAXI」で連ドラ初脚本を務めたバカリズム氏と、NHKEテレ「悪夢」の宇田学氏が奨励賞を受賞したものの、本賞は該当者なしだった。そもそも選考対象となった作品が3氏4作品と少なく、5人の選考委員からも「残念」の声が多く聞かれた。

 同賞が苦戦しているのは、選考の2大柱を「新進作家」と「オリジナル作品」に置いているためだ。昨年放送されたテレビドラマが対象だが、この2点を満たす作品は極端に少ない。元NHKプロデューサーとして朝ドラや大河ドラマの制作統括を務めた選考委員長菅野高至氏は「ドラマが原作ものばかりになり、脚本家がオリジナルを書く場が減っている。特に、若手がオリジナルを書ける枠が激減している」と話す。賞がスタートした2013年までは若手起用に積極的な枠が3つほどあったというが、頼みの綱だったフジテレビ火曜9時枠などが消滅。「毎年受賞者があるものと思って賞を創設したのだが…」と危機感をにじせませる。

 市川森一さんが活躍した時代は違った。全9話くらいで終わってしまう今の連ドラと違い、半年~1年くらいが基本形。メーンライターを中心に複数の脚本家が各話を担当するパターンが一般的で、若手の発掘、育成のシステムがあった。市川氏自身「快獣ブースカ」(66年、全47話)の第4話で脚本家デビュー。「コメットさん」「ウルトラセブン」の脚本メンバーとして一躍人気脚本家になり、オリジナルの傑作を量産した。今のドラマ界にも複数の脚本家がチームになっているシリーズものはいくつかあるが、そこから新人が出て、1クールのオリジナルで勝負させてもらえる展開はあまりない。

 ドラマの全盛時代、脚本家といえばオリジナルを書く人のことであり、市川氏のほかにも、山田太一、倉本聡、早坂暁、鎌田敏夫、向田邦子ら売れっ子脚本家が大勢いて、それぞれの作風にファンがついた。シナリオ本が売れた時代だ。現役世代を見ると、三谷幸喜、宮藤官九郎、坂元裕二、野島伸司ら、名前で作風がピンとくる脚本家は40代、50代ばかり。原作ものの面白さも否定しないけれど、ドラマファンとしては、オリジナルで「この人なら見る」と思わせる若手脚本家がどんどん出て、ドラマ界をわくわくさせてほしいと思うのだ。

 菅野氏は「ドラマ視聴率は軒並み不調。どうせ数字を取れないなら若手にチャンスを与えるべきと思うが、『新人のオリジナルです』ではスポンサーがとれない。オリジナルなら、せめて名前のある人で、となってしまう」。NHKはスポンサーと無縁だが「NHKがいちばんダメ。最近は編成が視聴率を気にする。新人や若手を発掘、起用しようという頑張りは、フジの方が上」。

 同じ週に行われた第23回橋田賞授賞式も、新人脚本賞の入選作は該当なし(応募総数146作)。一方、7件に贈られた本賞の橋田賞はそうそうたる顔触れだった。TBS日曜劇場「おやじの背中」は、山田太一、倉本聡、鎌田敏夫ら脚本界のレジェンド10氏が競演した豪華連ドラで、登壇した八木康夫プロデューサーもドラマ界のビッグネーム。テレビ朝日「時は立ちどまらない」の表彰では、山田氏、演出堀川とんこう氏がツーショットで登壇した。全体撮影はまるで殿堂のような風格だったけれど、フレッシュ感に欠ける光景は、業界にとって本当にめでたいのだろうかと気にもなった。

 若手からはかろうじて、新人脚本賞の佳作に選ばれた女性2人が登壇した。集まった大勢のテレビ関係者やメディアに仕事を売り込む大チャンスだが「たくさんの人に支えられ」とおとなしい。

 むしろ、少ない「枠」をめぐって闘志を燃やしていたのは、90歳橋田寿賀子氏の方だった。「ドラマはもう書く気はない」と隠居状態を宣言していながら、受賞作の数々に「見ていない」とライバル心むき出しでチャーミング。選考委員は別にいるので「見ていない」に矛盾はない。「おやじの背中」の八木プロデューサーには「なぜ私のところに話が来なかったのか。悔しくて1本も見ていません」。たじたじの八木氏とのやりとりでウケまくっていた。NHK朝ドラ「花子とアン」も「全然拝見していない」とし、制作統括の加賀田透氏に「私に仕事が来ない枠は見る気がしないの。朝は書かせていただけないですよね?」。90歳になっても枠を得て書こうとするプロの本能に、若手のガッツ負け感は否めなかった。

 菅野氏は「若手もテレビ局もパワー不足」とし「今のドラマ界は、元気がないというより、冒険しない。冒険すれば、お客さんも勢いで見ると思うんですよね」。橋田先生のパワーを、均等にばらまけないものだろうか。

 ○…ちなみに、写真の西田敏行さんと泉ピン子さんのツーショットは橋田賞の会場でのもの。私の大好きな市川森一作品「淋しいのはお前だけじゃない」(82年)の主役夫婦でもある。「『さびおま』のお2人を撮らせていただけませんか」とお願いすると、2人とも「おっ。いいねぇ、さびおま!」と笑顔を向けてくれました。

【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)