四代目市川猿之助(39)率いるスーパー歌舞伎2「ワンピース」が、先日、東京・新橋演舞場で幕を開けた。お家芸の宙乗り、火や水のスペクタクルなど、スーパー歌舞伎の離れ業に、原作ファンと歌舞伎ファンが混在する客席も大喜び。「賛否両論あってこそ本物」と、一門で人気マンガに体当たりするガッツが「自由」と「仲間」のワンピースそのもので、白塗りのルフィのロマンをわくわくと見た。

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 「『ワンピース』を歌舞伎がやるとこうなる、というものを見せたい」という猿之助の意気込み通り、ワンピースと歌舞伎の相性は意外にも抜群だった。麦わらの一味が端から名乗っていく様子は「白浪五人男」っぽくてぞくぞくするし、白ひげの最期は弁慶の立ち往生に通じる迫力がある。戦闘を盛り上げる拍子木のバタバタいう音や、ここ一番で見えを切る激アツな感じ、マンガにビジュアル負けしない豪華絢爛(けんらん)な和装など、歌舞伎のダイナミズムが広々としたストーリーによく合う。歌舞伎とマンガというクールジャパンの競演に、ベテラン演劇記者たちも「こんなの初めて見た」と興奮の様子だった。

 物語は、ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)をめぐる海賊たちの冒険ロマンで、今回描かれたのは、ファンの間でも人気の高い「頂上戦争編」。シャボンディ諸島で仲間と散りぢり→女ケ島→大監獄インペルダウン→マリンフォード頂上決戦までで、コミックだと51巻~60巻あたり。猿之助は、主人公ルフィ、女海賊ハンコック、シャンクスの3役を早替わりで演じている。

 「スーパー歌舞伎のあらゆる手法を取り入れた」という舞台は、文字通りの驚きの連続だった。見どころの数々がワイドショーなどでも紹介されていたけれど、お家芸の宙乗りは、長い滞空時間で3階席まで斜めに横断する大迫力。エースの指からは火拳も出るし、ステージ幅いっぱいに滝を出現させたずぶ濡れの大立ち回り、まさかの吹雪の術…。どえらい仕掛けを次々とライブでやってのける歌舞伎のカラフルさに、客席も歓声とどよめきで楽しそう。逆に、ルフィの手が伸びるゴムゴムの演出は、6人の黒子の腕を使った超アナログ。ショボかわいい手法が笑いと拍手を集めていた。猿之助いわく「歌舞伎は非常にばかばかしいのがウリなので、ばかばかしい仕掛けで楽しんでほしい」。アナログから最新の舞台装置まで、こんなこともできるのかという歌舞伎の万能に見入ってしまった。

 幕あいのロビーも熱気があった。20代~40代くらいのワンピース世代が多く見受けられたのも、固定客が多い歌舞伎では珍しい光景で「歌舞伎初めて見たけどすごい」「爆笑」「ルフィとハンコックの早替えすごかった」と盛り上がっていた。歌舞伎ファンには原作が気になるようで、年配マダムが若い人と「原作見たことないんですけどどうですか」「かなり再現率高いですよ」みたいな異文化交流をしていてほほ笑ましかった。

 「自由」「仲間」というワンピースのキーワードも、猿之助率いる澤瀉屋(おもだかや)にそのまま当てはまる。演劇界の才能たちとともにまったく新しい舞台空間を作り上げる芸風は「歌舞伎界の異端児」とも評され、裏方も含めて一門の結束は固い。「賛否両論あってこそ本物」とわが道をぐいぐい行く猿之助と、彼のもとに団結する仲間たちの構図は麦わらの一味そのものに見える。俳優は外からも集まり、声も姿もいい福士誠治のエースは舞台映えしてかっこいいし、とんでもない姿でイワンコフを演じる浅野和之はただならぬ存在感で客席をがんがん笑わせていた。「みんなに助けてもらわないと生きていけない自信がある」というルフィの名ぜりふが、猿之助の思いそのものにも聞こえて、いろいろと胸に落ちた。

 3部構成で、休憩を入れると5時間近い長丁場。これを1日2回公演こなすのだから、歌舞伎の人はルフィ並みにタフである。何の実を食べた能力者なのか、ちょっと気になる。

 新橋演舞場で11月25日まで。

【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)