NHK大河ドラマ「真田丸」が快調だ。戦国ものというと豊臣秀吉役に目がいってしまう身としては、小日向文世(62)の計り知れない秀吉像にハマり中。見る人によって好みや求めるイメージが違うのが戦国キャラの面白いところ。小日向版秀吉もこれから大詰めであるのを機に、大河ファン、秀吉ファンの1人として、勝手に秀吉マイベスト5を挙げてみた(順不同)。

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 ◆緒形拳

 子供のころ夢中で見た「黄金の日日」(78年)の秀吉役。貿易商として身を立てる主人公、助左(市川染五郎)と対立する悪役的存在。怖すぎる臨終シーンは、善住坊(川谷拓三)ののこぎり引きと並ぶトラウマ名場面。寝所で1人、恐怖と苦痛でもはやこの世の者ではない死に顔は、マイルド志向の現在では望めないインパクト。親友のように夢を語り合った助左との歩幅が次第に合わなくなっていく過程は子供心にも悔しく、今思えば緒形拳のすごみゆえ。足軽から関白になり得た時代を自ら終わらせるサクセスストーリーの矛盾を、体全体にみなぎらせていた。65年の「太閤記」でも秀吉を演じていて、見ている世代がうらやましい。

 ◆勝新太郎

 平均視聴率39・7%。大河最大のヒット作「独眼竜政宗」(87年、主演渡辺謙)の秀吉役。主演に大抜てきされた新人渡辺謙と、超大御所勝新太郎という組み合わせが、若武者VS天下人というキャラの関係性そのままでしびれた。小田原参陣の初対面シーンでは、リアルに貫禄負けしている渡辺謙を、すごい圧力でひとにらみ。冷徹だが愛情も感じる目ヂカラと、刀を預けて平然と用を足してみせる偉大さにわくわくした。古典芸能の名手でもある勝新の秀吉は、酔って能を舞ったり長唄を歌ったり、女のからかい方が粋だったり。「下品」「サル」の要素ゼロ。秀吉というより完全に勝新太郎劇場で、すごいものを見ている感動があった。

 ◆竹中直人

 日焼けしたふんどし姿で山を走り、泥大根をかじる。「秀吉」(96年)で打ち出した秀吉像のインパクトが強すぎて、彼以降の秀吉は柄本明とか笹野高史とか、下品な味を出せるサルっぽい人がスタンダードに。クドさやウザさは個人的に好みではないのだけれど、裸一貫から成り上がるがむしゃら感はずばぬけていて、木下藤吉郎時代の秀吉がよく似合う。躍動感がありすぎて、ふんどしから何かがはみ出すハプニング。NHKも「大熱演で芝居も良かった」とそのまま放送するいい時代だった。14年「軍師官兵衛」で2度目の秀吉。

 ◆火野正平

 大河でもぶっちぎりにファンの多い「国盗り物語」(73年、主演平幹二朗→高橋英樹)の秀吉。子供だったのでかっこよかったことしか記憶にないが、総集編をあらためて見てみると、やはりこの人の秀吉がいちばん好きかも。まだ20代の若さでスピード感があり、見た目のサルっぽさや品のなさも妙に色気。織田軍の大ピンチにしんがりを名乗り出る名場面など、自信と捨て身がみなぎっていて、非エリートの型破りと天性の人たらしに心躍る。物語が信長の死、明智の死で終わるので、秀吉は脂ののりきった羽柴時代でフェードアウト。中国大返し&明智討伐でかっこいいまま終了。

 ◆小日向文世

 「真田丸」の秀吉。火野正平とは逆に、天下をほぼ手中におさめた関白時代から登場。生き生きと戦上手な前半なしで秀吉を好きになれるのか案じたけれど、初めて会う真田信繁に「来い! 早く!」とびょうぶの裏に隠れる登場シーンに藤吉郎のなごりがあって、一発でファンになった。ヘンな陣羽織を微妙に着こなす愛されキャラも、「力になってちょー!」とぐいぐい来る名古屋弁も魅力的。ピンポイントで人心を掌握する才能、遊んでいるようで画期的な改革の数々。ちゃめっ気ある笑顔だが目が笑っていない闇っぷりが素晴らしい。幼い鶴松を亡くした父親ぶりも染みた。権力者が崩壊していく恐ろしさをどう見せてくれるのか、前のめりで見たい。

【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)