TBS系バラエティー「プレバト!!」(木曜午後7時)の俳句コーナーが人気だ。芸能人の凡作を名作に変身させる俳人夏井いつき氏の劇的添削が話題で、今や2ケタ視聴率を外さない人気コンテンツになっている。9月1日放送の3時間SPでは、実力最上位の特待生8人による初の特待生スペシャルが開催される。「カスカスだった彼らがここまで来た」と感慨深げな夏井先生に、芸能人の俳句レベルについて聞いた。

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 -番組で俳句コーナーが始まって3年。登場した約300人の芸能人の中から、夏井先生が「特待生」に認定した芸能人は8人になりました。梅沢富美男名人を筆頭に、FUJIWARA藤本敏史、Kis-My-Ft2横尾渉、千賀健永、東国原英夫、NONSTYLE石田明、三遊亭円楽、ミッツ・マングローブの面々で、初の特待生SPです。

 夏井 最初はそれはもうレベルが低くて(笑い)。今はちゃんと作品と呼べるものが生まれ出した手応えがあります。藤本さんや石田さんなんか、ほんとカスカスだったんだから。へたくそな上に発想も普通で、よくお笑いできるなと(笑い)。でも、こつこつと季語や型を覚えてくるし、言われたことを忘れない。努力型でここまで来てくれました。

 -藤本さんが湯島天神のお題で詠んだ「肩車 子の鼻先に 触れる梅」とか、素晴らしかったですよね。いつもは辛口の夏井先生が「映像的」「ちゃんと学んでるよあんた」「きょうは酒がうまい!」と飛び上がって激賞していて。

 夏井 あの人、作風が意外とファンタジーなんだよね(笑い)。努力型だから能力が後戻りしないし。逆に、作品によってアップダウンがすごいのが東国原さん。ひまわり畑の写真を見て「眠るむくろ」に思いをはせるとか、発想が本当に面白いんだけど、テーマによっては発想に酔ってやりすぎちゃう。あの方、真剣に俳句やったら絶対うまくなると思うんだけど。名人の梅沢さんはやっぱりうまいです。

 -誰でもできる俳句の、奥深い世界。先生の容赦ないダメ出しとあざやかな添削が非常にエンタメ的で、俳句ブームをけん引しています

 夏井 添削でこんなに変わるんだと、1度面白く感じてもらえれば食べ始めてくれる。補足映像や昇級システムなど、面白がらせる番組の手法はすごいですよね。私は俳句の種まき活動を30年やってきましたが、急に注目度がバーンときたのはプレバト以外のなにものでもない。敷居やハードルをブルドーザーでガーッと(笑い)。

 -番組では毎週5人くらいの俳句を査定していますが、「才能アリ」「凡人」「才能ナシ」の基準は何ですか

 夏井 詩のかけらがあるかということですね。詩のかけらを作ろうという意識はあるけど日本語がうまく機能していないのが「凡人」。詩のかけらが希薄で発想がありきたりなのが凡人の下のほう。日本語の仕組みが分かっていないのが「才能ナシ」です(笑い)。

 -語順を入れ替えたり、助詞を変えるだけで作品が大変身する夏井マジックはどこからくるのですか

 夏井 私じゃなく、日本語がすごいんですよ。助詞を変えるだけで作者の立ち位置が全然違ってくる。無意識にしゃべっている時は気付かない日本語の豊かな働きが、17音という短い詩形の中だとよく分かる。日本語のすごさを知ってもらえたらうれしいです。

 -添削にはどれくらい時間をかけているのですか

 夏井 上位の句は見た瞬間に添削ポイントが分かるのですぐ終わります。問題なのは半分から下。何を言いたいのか分からないから添削の手だてがないというやつ。最下位のひどい場合は3日くらい考えて、移動中も楽屋でもまだ考えて。この程度の句になんでこんな苦労を(むかむかと)。ほんと腹立つ。

 -過去には史上最低の5点で「添削不能」となったノンスタ井上裕介さんのような問題作も(笑い)

 夏井 花火大会のお題で「ドドドーン 蚊、動き止まる 空の花」。まったく意味不明(苦笑い)。申し訳ないけど、このレベルの句は、普通の句会では闇から闇に葬られて、人の目に触れない。この番組をやるまであんなへたくそな句を添削する経験がなかったので、最初は本当に戸惑いました。

 -一般的な句会と比べて、プレバトの芸能人のレベルはどのくらいですか

 夏井 プレバト名人の梅沢さんが普通レベルの俳人。特待生クラスが、句会でなんとかやれるレベル。でもいいんです。やっとここまで来たんですから。「私もやってみたい」という入門編として素晴らしいです。それに、いちばん勉強になっているのは私。感覚的に分かっている日本語の使い方をあらためて調べて、そうだったのかと気付くことばかりです。

 -俳句のセンスはどこに表れるのでしょう

 夏井 観察と想像。じーっと観察して面白いものを見つけられるタイプか、想像して人が考えないことを思い付くタイプか。どちらか1個あれば十分。

 -だからこそ、無個性な、手あかのついた表現に先生は厳しいですよね。「黄色いじゅうたんのような菜の花畑」とか「鏡のような月」とか

 夏井 もみじのような手とか(笑い)。一見詩的に見えるけど、はいて捨てるほどある表現なんだと知ることが大事。「母想う」とか。やたらめったら母想うんだよ~、わはは。

 -ズバズバ言う歯切れの良さと添削力の夏井ワールド。番組では“毒舌先生”と言われていますけど。

 夏井 毒じゃないけどね、とは思いますけどね(笑い)。だから何だと。わはは。

 -では、ここまで腕を上げた特待生たちにひと言

 夏井 いや、もうちょっと上手になってほしいね(笑い)。

◆夏井(なつい)いつき 1957年生まれ、松山市在住。8年間の中学校国語教諭を経て俳人へ転身。俳句集団「いつき組」組長。全国高校俳句選手権「俳句甲子園」の運営にも携わり、「俳都松山宣言」起草に携わるなど全国的に幅広く活動中。テレビ、ラジオ出演、受賞歴、著書多数。

◆「プレバト!!才能査定ランキング3時間SP」は9月1日午後7時から。特待生8人による俳句コーナーのお題は「秋の空」。降格者も出る大波乱に。

【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)