劇団四季ミュージカル「ノートルダムの鐘」が東京・浜松町の四季劇場「秋」で開幕した。四季にとって6作目となるディズニーミュージカル。ハッピーでファンタジックな従来のテイストと違い、ダークで重い世界観に驚かされた。

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 初日は文字通りの万雷の拍手で、カーテンコールは7回にも及んだ。いきなりの総立ちではなく、胸が締め付けられて立てないからとりあえず拍手だけは盛大に、というリアルな熱気。4回目くらいから一斉にスタンディングオベーションとなった。客席で見届けた作曲家アラン・メンケン、演出家スコット・シュワルツらオリジナル版の巨匠陣も、尻上がりに爆発していく拍手に面食らった様子で、抱き合って喜んでいた。

 「ノートルダムの鐘」は、仏文豪ヴィクトル・ユゴーの代表作で、96年にディズニーで映画化された。醜い容姿ゆえ、ノートルダム大聖堂の鐘楼に閉じこめられて生きてきたカジモドが、外の世界へ踏み出したことで起こる悲劇。ひどい群衆リンチから救ってくれたジプシーの娘エスメラルダに片思いの恋をし、彼女が権力者フロロー大助祭によって火あぶりにされると聞いて助けに行く物語だ。ステージに出てきた1人の舞台俳優が、顔に墨、背中にこぶをつけてカジモドに変身すると物語が始まる。

 別の原題で記憶している古い世代なので、正直どんな話か忘れていた。展開につぐ展開、人間の醜さと美しさをむき出しにする重厚なストーリーに、「こんな圧倒的な内容だったか」と見入ってしまった。ハッピーエンドの映画版ではなく、完全にユゴーの原作寄り。大人向けの作風で、こんなディズニーもすてきだ。

 作品の世界観を決める悪役、フロローの個性が分厚い。信心深いのはいいけれど、まじめすぎる人、正しすぎる人ほどやっかいという善悪のカオスがじわじわとグロテスク化していく。異形のカジモドも、独自のルールで生きるエスメラルダも、フロローにとっては「排除すべき異質なもの」。意地悪や征服欲でやっているなら戦いようもあるが、「自分だけが正義」「それ以外は邪悪」の一念だからやるせない。

 「移民お断り!」「国境に壁を作るぜ!」みたいな、世界で起こっている政治的な変化とつい重ねたくなる。フロローみたいな人、身近にもいるなー、とか思いながら、ふと自分はどうなのだとも思う。「怪物」として石をぶつけられるカジモドがあまりにも気の毒で、毅然と助けに行くエスメラルダの美しさに救われる。

 失恋で心をへし折られ、石像を相手にグチっているカジモドの人間くささがチャーミング。フロローから「冷酷」と教えられた世界は実際冷たいけれど、生身でぶち当たりながら人との信頼関係を築いていく1歩1歩に勇気付けられる。登場した時の変身の演出が効いてくるラストシーンも見もの。悲しいお話に、アラン・メンケンの美しい音楽がパワーをくれる。年の瀬にディズニーでも、みたいなノリで足を運ぶとこたえるけれど、帰り道を顔を上げて歩きたくなる後味だった。

 東京・浜松町の四季劇場「秋」で、来年6月25日まで。

【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)