NHK連続テレビ小説「ひよっこ」(月~土曜午前8時)で、1話から親しまれているのがスポーツジャーナリスト増田明美さん(53)の語りだ。明るく心地いい声と、圧倒的な小ネタ情報を盛り込むマラソン解説スタイルが人気だ。「登場人物たちを沿道から応援している気持ち」という、増田明美流ナレーションの極意を聞いた。

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NHK連続テレビ小説「ひよっこ」のナレーションを務める増田明美さん(C)NHK
NHK連続テレビ小説「ひよっこ」のナレーションを務める増田明美さん(C)NHK

 -1話の第一声で「おはようございます。増田明美です」とナレーションが名乗ったのは、朝ドラ史でも衝撃でした(笑い)。明るくて遊び心があって、作品の世界観が伝わるすてきな声だと反響を呼びましたよね。

 増田 ありがとうございます。台本を読んだ時は「いいのかな」と思いましたけど、奥茨城の農家の朝に、ニワトリがコケコッコーと鳴くところで「おはようございます。増田明美です」は妙にはまったなと(笑い)。うちも南房総の専業農家で、においが似ているんです。おこがましいですけど、あの風景に私の名前は合っていると思いました。

 -あの第一声は一発OKだったのですか。

 増田 いえ、3~4回くらい。多くの人が見ている朝ドラなので、最初はちょっと気取って読んでいたみたい。気取って読むと陳腐に聞こえちゃうのね。スタッフさんから「肩の力を抜いて」と。私がいつものマラソン解説風にできるように、隣に実況アナウンサーのように座って空気をつくってくださって。私の声が作品の邪魔をしていないか心配で、1話が放送された日はテレビの前で直立不動で見ました。

 -語りを引き受けた経緯は。

 増田 ひょっこりひょうたん島やビートルズなどの昭和の高度成長期の文化や、人々に希望や躍動感があった時代感を、私のマラソン解説の小ネタ風なトーンでやってほしいとNHKさんからお話をいただきました。それなら私にも務まるかなと。

 -昭和の懐かし映像に、増田さんの温かくてはつらつとした声がよく合うんですよね。「朝ドラには変なおじさんが出てきますよね」「引いてますよね」「生きていたんですね」みたいな、つっこみワールドも斬新です。

 増田 脚本の岡田恵和さんは、人の持ち味を上手に生かすのね。歌がうまい俳優さんに鼻歌を歌わせたり。私に関してもそうなんだと思います。毎回、台本を読むのが楽しみでしょうがない。最近は、台本にないところでも「あらら?」みたいな言い回しをちょっと付け加えてみたり。調子に乗ってやると却下されるんだけど(笑い)。

 -ナレーションとして全体を俯瞰(ふかん)するというより、登場人物たちに中継車で並走して実況しているような印象というか。

 増田 そうなんです。みんなひたむきに生きていて、応援したくてたまらない人ばかりなの。中継車というよりは、むしろ沿道ね。マラソン中継で、選手を応援する子供が沿道を走ってたりするじゃない? あの気持ち。「頑張れ」って気持ちになりすぎて、いすから立ち上がっちゃって、そのノイズでボツになる失敗もよくあります(笑い)。

体育教師役でワンポイント出演した増田明美さん(左)(C)NHK
体育教師役でワンポイント出演した増田明美さん(左)(C)NHK

 -ご自身の声についてはどう思いますか。

 増田 うーん…。私、大学(大阪芸大)で授業もしているんですけど、寝ちゃってる子が多いのね(笑い)。アナウンサーみたいに1個1個の単語が立たなくて、パンチがないのがコンプレックス。50過ぎても声が高いから、難しい会議でも私が発言するとみんな笑うんですよ。いっぱいしゃべることには自信がないので、朝ドラの15分という長さはちょうどいいのかもしれません。

 -「ひよっこ」の語りで楽しいのはどんなせりふですか。

 増田 当時の物価。ラムネが1本15円の時にみね子の給料が1万2000円、大卒初任給はその倍くらいとか。自分がランナーで数字とにらめっこしてきたので、数字が出てくるとなんか面白いね(笑い)。

 -データ好きなところは、マラソン解説に圧倒的な選手データを盛り込んでくる増田さんらしいですね。現役時代はもっとストイックで無口な印象だったのですが。

 増田 根は典型的な千葉なのね。温暖で明るくて。長嶋茂雄さんも千葉じゃない? いろんな意味であまり深く考えないの(笑い)。でも、競技時代は全然ハッピーじゃなかった。20歳のロス五輪が途中棄権で終わって、川鉄の寮に閉じこもって暗かったよねー。オレゴン大学に陸上留学した時に、ブラジル人のコーチに言われたの。「良い結果というものは、生きていてハッピーだと思える時に自然に生まれるものさ」って。その言葉で、本来の自分に戻れました。

NHK連続テレビ小説「ひよっこ」について語る増田明美さん
NHK連続テレビ小説「ひよっこ」について語る増田明美さん

 -「ひよっこ」は東京五輪の1964年(昭39)からのスタートでしたが、あの大会に出てみたかったとは思いませんか。

 増田 いや、出たくない(笑い)。9話で聖火リレーを教える体育教師役で出演させていだいたんですけど、あのころのシューズはペタペタで、収録の距離を4回走ったら肉離れを起こしてたの(笑い)。円谷幸吉さんとか、あのシューズはいて走ってた世代はすごかったなって。私は女子マラソンの黎明期で良かった。あの時代だったから今があって、「ひよっこ」のようなすてきなお仕事もできて。いい人生。

 -いよいよ「ひよっこ」は、工場の倒産からの新たなスタート。新キャラも続々登場ですね。

 増田 つらいことがあっても、めげずに前を向く姿には元気をもらえますよね。ナレーションもノッてます。いつか終わっちゃうのかと思うと、さみしくてて涙が出そうになっちゃう。「ひよっこ」が終わった日常はどう暮らしていけばいいのかしらと(笑い)。

 -早すぎませんか(笑い)。9月までありますよ。

 増田 あはは。それくらい毎日がハッピーで、いい緊張感の中にあります。

【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)