10月期の秋ドラマが出そろった。TBS水ドラ枠とフジテレビ日曜9時枠が消滅し、テレビ朝日はシリーズものが占拠。枠不足のせいか主演級を集めた「豪華メンバー集結」が多い。見せ場の配分で画面が渋滞する中、しっかり主人公に集中できている作品に見ごたえを感じる。「勝手にドラマ評」32弾。今回も単なるドラマおたくの立場から勝手な好みであれこれ言い、★をつけてみた(定期シリーズものは除く)。

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フジテレビ系月9ドラマ「民衆の敵~世の中、おかしくないですか!?~」
フジテレビ系月9ドラマ「民衆の敵~世の中、おかしくないですか!?~」

◆「民衆の敵~世の中、おかしくないですか!?~」(フジテレビ、月曜9時)篠原涼子/高橋一生/石田ゆり子

★★☆☆☆

 ドタバタと支離滅裂な感じは「セシルのもくろみ」と似ている。失業した中卒主婦が議員報酬目当てで市会議員になる、という無節操なプロットはコメディー向きだったのに、ネットで調べたような雑な格差語りが長いのと「しあわせになろうね!」という無味無臭のスローガンでジャンル不明に。今や大女優シフトを敷く篠原涼子に「庶民」をやっていただく発想が古い気がする。むしろ「民衆の敵」側に回って、身勝手に突き進んでいたら結果的に庶民のためになっていた、みたいなロジックの方が痛快だったのでは。「わが子にステーキを」なんて涙ぐんでいないで、せめて「このハゲーー!!」くらい言わせないと、リアル政界の喜劇性にかすんでしまう。

フジテレビ系連続ドラマ「明日の約束」
フジテレビ系連続ドラマ「明日の約束」

◆「明日の約束」(フジテレビ、火曜9時)井上真央/及川光博/仲間由紀恵

★★★★☆

 誰が吉岡君を殺したのか。高1男子の不可解な死にスクールカウンセラーが迫る。いじめ、過干渉な毒親という平成ドラマの2大要素がどす黒いグラデーションとなり、実は主人公自身も毒親支配で病んでいるイヤミス設定。学校という閉鎖社会、家庭というブラックボックスのグロテスクを丁寧に引きずり出しているので、マスコミ襲来、毒親の反撃などの展開に興味が沸く。井上真央が母親(手塚理美)としてきた交換日記「明日の約束」が怖い。毒親役の仲間由紀恵もホラーで安定。作品がゲテモノの一線を越えないのは、吉岡君を演じた遠藤健慎の力。ガラスの10代の複雑さ、透明感を一身に背負い、いなくなった後も作品の格調と世界観を支えている。

TBS系火曜ドラマ「監獄のお姫さま」
TBS系火曜ドラマ「監獄のお姫さま」

◆「監獄のお姫さま」(TBS、火曜10時)小泉今日子/満島ひかり/伊勢谷友介

★★★☆☆

 宮藤官九郎氏脚本。5人のおばさん受刑者と女性刑務官のハプニングだらけの復讐劇。オープニングの「サンジャポ」「じぇじぇじぇ」のパロディーが効いていない上、量子力学みたいに時間軸を行ったり来たりで、正直よく分からなかった。刑務所時代のあれこれは2話から。過去と現在、話があちこちに飛びながら、なぜイケメン社長に復讐するのかが見えてくる仕組み。物語は前に進んでほしい派なので、好みとは違った。小泉今日子、満島ひかり、菅野美穂、坂井真紀、森下愛子の「夢の豪華キャスト」とTBSは胸を張るが、私には4番打者ばかりで逆に夢がなく、画面上も大渋滞に見える。はまる人には中毒性がありそうなクドカン印。

◆「奥様は、取り扱い注意」(日本テレビ、水曜10時)綾瀬はるか/広末涼子/西島秀俊

★★★☆☆

 元スパイの専業主婦がおせっかいな人助け。「SP」「CRISIS」の金城一紀氏が女性向けラブコメ枠に初挑戦。国家を揺るがさないご近所トラブルにどんなスゴテク&バカテクの金城ワールドがコラボするのかと思ったら、そういうの一切なし。奥さまトリオとおしゃれランチやカルチャースクールで女子力磨きという月9路線で、刻んだ野菜がつながっている、着物の帯でお代官様ごっこ、依頼は夫のDVというベタを一からこつこつと。綾瀬はるかのアクションがボリューム不足で、あこがれる女性キャラが1人も見つけられなかった。インスタ映えドラマとしては枠のニーズに合っており、勝手にハードルを上げなければさくっと楽しめる快作。実際、視聴率もいい。

フジテレビ系木曜劇場「刑事ゆがみ」
フジテレビ系木曜劇場「刑事ゆがみ」

◆「刑事ゆがみ」(フジテレビ、木曜10時)浅野忠信/神木隆之介

★★★★★

 浅野忠信×神木隆之介で今期ぶっちぎりの見ごたえ。テキトーに見えて捜査センス抜群の主人公に油断ならない切れ味があり、若手の正義感を手玉にとりながらニヤニヤと核心に迫っていくスタイルにわくわく。振り回されるほどギラギラ燃える神木隆之介の鼻っ柱に色気があり、走ってよし、格闘してよしの身軽さも痛快。2人のガキのような主導権争いが笑えるだけに、人間のちょっとしたゆがみが引き起こす事件の悲しさに分厚い読後感がある。最近のドラマはやたら登場人物が多いので、バディーに集中したスピード感にわくわく。アップに頼らないワイドなカット割りの迫力がぬかりなく、演出の力が偉大。女上司稲森いずみの七色の蹴りも偉大。

TBS系金曜ドラマ「コウノドリ」
TBS系金曜ドラマ「コウノドリ」

◆「コウノドリ」(TBS、金曜10時)綾野剛/松岡茉優

★★★★☆

 2年ぶりの続編。「母の愛」の美化や、ズレた正論をわめく役目はいつも女など、第1シリーズの苦手要素だったものがすっきりして見やすい。「命の尊さ」という、批判されない安全地帯で作りたいものに集中できていて、産後うつなど、産んだ後の現実を描くのも新しい。その分、検査結果のたぐいは「聴力問題ありません」「がん細胞消えてました」とハッピーに。素晴らしいのは各話のキャスティング。1話の志田未来の手話と筆談が泣けるわほっこりだわ。2話の福士誠治、土村芳の夫婦が本当にお似合いで、究極の二択を迫られた大粒の涙に胸をつかまれた。産後うつの高橋メアリージュンもすごい力量。ピアニスト綾野剛のかつらもまともになった。

◆「先に生まれただけの僕」(日本テレビ、土曜10時)櫻井翔/蒼井優/多部未華子

★★★★★

 人事異動で不採算高校の校長職に飛ばされた商社マンの学校建て直し。商社カルチャーVS職員室。備品の節約から不満分子の追っ払い方まで、教育現場に繰り出されるビジネス手法に刺激があり、この人の突破力に興味がわく。最短で詰もうとする習性や校内での浮きっぷり、実際失敗も多いという欠点に笑える人間臭さがあって、失敗のままで終わらせないしぶとさも魅力的。ぐずぐず言わず主人公が動くドラマは大好き。「奨学金」「アクティブラーニング」「学ぶ理由」など、素人手法が映えるテーマ選びも個性がある。互いに刺激し合い、響いたと思ったら全然響いていないいばらの道も爆笑。櫻井君はエリート役とコメディーがよくはまる。

テレビ朝日系土曜ナイトドラマ「オトナ高校」
テレビ朝日系土曜ナイトドラマ「オトナ高校」

◆「オトナ高校」(テレビ朝日、土曜11時5分)三浦春馬/黒木メイサ/高橋克実

★★★★☆

 少子化対策で、性経験がない大人にモテ教育をたたき込む公的機関「オトナ高校」1期生の試練。昨年、舞台「キンキーブーツ」で表現と振り幅の潜在能力を見せつけた三浦春馬が、プライド先行で童貞をこじらせている30歳エリート銀行員役に体当たり。デート、ホテルなど未知の授業に放り込まれた時の二度見、ガン見がキレキレで、「背中にコンパス刺されたら教えるしかないだろう」のせりふに噴いた。コメディーができる正統派二枚目は貴重。岡田将生君の独壇場と思われた分野に本格参戦で頼もしい。妻と5人の愛人がいるブサメンなど講師陣の二流感もちょうどよく、山田ペガサス先生の毒舌恋愛理論もツボ。土曜深夜はこんな感じでOK。

TBS系日曜劇場「陸王」
TBS系日曜劇場「陸王」

◆「陸王」(TBS、日曜9時)役所広司/山崎賢人/竹内涼真

★★★★☆

 中小企業の熱き男たちが大企業をぎゃふんと言わせる、日曜劇場×池井戸潤原作のテンプレート。今回は、足袋屋さんVS大手スポーツメーカー。「バルブはロケットエンジンの命」が「ソールはシューズの命」に変わり、銀行とのバトル、特許をめぐる攻防などの展開を踏んでいく。ワンパターンだけれど、業界弱小チームが持ちうる技術と勝機をよく研究していて、逆転劇に無理がないのでつい見てしまう。足袋屋さんの再生と、マラソンランナーの復活の二段構えで躍動感があり、山崎賢人と竹内涼真のWイケメンなど新しい工夫もしている。なんだかんだ視聴率も14%台キープの強コンテンツ。ニーズに応えてしっかりワンパターンをやるのも大事なこと。

日本テレビ系日曜ドラマ「今からあなたを脅迫します」
日本テレビ系日曜ドラマ「今からあなたを脅迫します」

◆「今からあなたを脅迫します」(日本テレビ、日曜10時半)ディーン・フジオカ/武井咲

★★☆☆☆

 人を脅してやっかいごとを解決する「脅迫屋さん」と、超お人よしお嬢さまのドタバタ事件簿。命がけの仕事のわりに報酬が小銭だったりする脅迫屋と、ムダにお金を持っていてポーンと数千万出すお嬢様のスケールの違いの妙。タイトルのキメぜりふありきで、脅迫という名の駆け引きのテクニックは手薄。脅迫と謎解きがかみ合わず、探偵業との違いがよく分からなかった。原作通り、お嬢様側からの視点で描いているけれど、映像なんだからもっと主演のディーンにフォーカスして、脅迫、アクション、ずっこけでテンポを上げてほしかった。というか、武井咲ちゃんが走ったりナイフを持ったりするたびに心配で仕方がない。

【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)