NHK大河ドラマ「おんな城主 直虎」(日曜午後8時)が、17日放送分で最終回を迎える。資料の少ない女城主、井伊直虎を生き生きと立ち上げ、戦国時代をダイナミックに描いた作風は、多くの視聴者をくぎ付けにした。全50話を書き上げた脚本家森下佳子氏が、最終回を前に、「直虎」創作秘話とこの1年を語った。

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NHK大河ドラマ「おんな城主 直虎」(C)NHK
NHK大河ドラマ「おんな城主 直虎」(C)NHK

 -全50話を書き上げた感想は。

 森下 はじめは書ききれる感じがしなかったので、なせば成るもんだなあと。すごく楽しかった。特に女性からの反応がビビッドでうれしかったです。

 -何が女性層に刺さったと思いますか。

 森下 政治や組織全体を説明していくのではなく、人物との関係を書いていったところが見てもらいやすかったのかな。あとは結局、私の好きな男のタイプをバーッと並べただけで、これもいいけどあれもいいよね、とやっていたところが確かにあります(笑い)。そこに素直に反応してくれたのかもしれない。男たち、みんなかわいい。

 -小野政次(高橋一生)を処刑に追い込んだ近藤さん(橋本じゅん)もですか。

 森下 近藤さん大好き。政次が死んだ時には「お前をはりつけにしてやろうか」みたいな気持ちだったんですけど、その後の「クララが立った」あたりからすごい好きになって。史実でも、井伊谷を最後まで治めるのは近藤さんなんです。最終的に直虎に近いのは近藤さんの家だった。とってもキュートで、橋本じゅんさん、ありがとう!

 -政次の処刑シーンは大きな話題になりました。はりつけになっている政次に直虎自らがヤリを刺すという。

 森下 はじめは刺す予定じゃなかったんですよ。政次が身をていして処刑されることで井伊谷を守り、直虎さんは刑場に見送りに行って経をあげ、それを聞きながら政次がフッと笑って死ぬイメージだったんです。この一瞬のほほ笑みのために高橋一生さんにお願いしたといっても過言ではないくらい(笑い)。でも、答えはひとつじゃないはずだと最後まで粘って考える主人公が、ただ見送りに行くだけなのは違うんじゃないかと。政次の意志が分かっているあの状況で、彼女ができる最大の見送り方があれだったという解釈で刺しました(笑い)。

 -壮絶さに大きな反響が。

 森下 時代劇の良さって、何をするにもダイナミック。好きな相手が明日殺されるかもしれないとか、好きになってはいけない相手がいるとか、現代のドラマでは成立しないカセを時代劇は自由に放り込んでいける。話の中にダイナミックな情緒の動きを取り込みたいなと、恋愛もそういうフェーズで書きました。

脚本家森下佳子さん
脚本家森下佳子さん

 -井伊直虎は資料が少なく、創作は難しくなかったですか。

 森下 点しかないので、その間にどういうことがあったんだろうというのが難しかったです。

 -史実の間を埋めるエピソードがあざやかで、豊富なアイデアはどこから。

 森下 海がないから貿易はできないだろう。気賀というところで瀬戸方久という人が城主をやっていたらしい。そういう痕跡を拾って、井伊谷で起こり得ることにフィードバックさせていきました。あとは、彼女がお坊さんだったというファクターもあります。城主とはいえ尼さんという人はどういうふうに考えて立ち向かっていっただろうと。史実の痕跡と、パーソナルな話をがっちゃんこして作っていった感じです。

 -楽しい作業でしたか。

 森下 しんどい(笑い)。でも楽しいですよね。方程式を解くのに似ている。「話を作らなければなりません」「こういう条件がそろっています」「どういう解が導き出せるでしょう」みたいな。解けた時ってすっきりするじゃないですか。ああいう感じ。

 -書くのに最も苦労したのはどのあたりですか。

 森下 当初の予定では、龍雲丸(柳楽優弥)と直虎さんはもうちょっと早く男女間が漂う感じだったんですけど、なかなか色っぽいことにならなくて(笑い)。ふたりの真ん中に自分が守りたい生き方がどんとあって、これがある間に恋愛しちゃう人たちって嫌だなと思ったらうまくいかなくなって。無理にやるのはあきらめて、このタイミングだったんだと。

 -龍雲丸との恋について。

 森下 政次の死の後、女性としてずっとフタをして生きていくという選択肢は立派すぎて私の中にはなかった。彼女がひかれるのは、彼女が生きてきた世界とはまったく違う世界の人であってほしかった。全然違うバックボーンを持った、人として尊敬できる人を好きになってほしかった。

 -直虎の生涯には、井伊直親(三浦春馬)、小野政次(高橋一生)、龍雲丸(柳楽優弥)という3人の男性が現れて。

 森下 3人くらいいませんか、生涯で好きになる男って。直親は初めから定められていた相手。政次は、直虎から見て恋愛の対象ではなかったと思うんですよ。それよりもっと深い、2人にしか分からないきずなが主従にはあるだろうという文脈で書いていました。

NHK大河ドラマ「おんな城主 直虎」(C)NHK
NHK大河ドラマ「おんな城主 直虎」(C)NHK

 -いろいろなキャラクターを動かす中で、思った以上に動きだした登場人物はいますか。

 森下 終盤にかけて思いかけず動いたのは今川氏真(尾上松也)。(没落以降)徳川の下に入って和歌を詠んでいたらしいとか、それもひとつの生き残り方だという形で書こうと思っていたのですが、終盤、思わぬところから彼がこのドラマにふさわしいラストを切り開いてくれました。書き終わった時に、直虎が氏真に恋をしていたらどういう話になっていただろうと妄想もしましたね。史実がないってそういうことなんですよ。いかようにもあり得るので、それはそれで面白かっただろうなと。

 -いい意味で俳優の演技が想定と違って驚いたケースはありますか。

 森下 最近いちばん驚いたのは、家康さん(阿部サダヲ)がわりと生々しくいやらしい(笑い)。もうちょっとコメディー寄りになるかと思ったんですけど、阿部さん意外と生臭いよというのが新鮮でドキドキしました。

 -主演の柴咲コウさんについて。

 森下 すごい華があって、ぴしっと演技に迷いがない方。やんちゃな城主時代の時と、在野となって土地を治めていく時と、その時代時代で明らかに違う色をもっているのがあざやかで、ピシピシと塗り分けてくださったのはありがたかった。さすが殿、という感じです。

 -既存の映画や小説をモチーフにした各話のサブタイトルも話題になりました。

 森下 ダジャレとかパロディーがすごい好きで、「いいよ」と言ってくれたのでやらせてもらった。楽しかったです。いちばん気に入っているのは、「嫌われ政次の一生」。ディレクターがつけたんですけど、あれは素晴らしかった。

 -囲碁の名シーンも多いですが、演出に使ったねらいは。

 森下 囲碁か将棋をアイテムとして使いたいなと、はじめから。離れていて、見えない相手と碁ができるということに私の中で盛り上がって出てきた案です。この相手だったらこうやるだろうと分かるまでにどれだけの月日を重ねて。できたらすごいよね、一体感あるよねと。

 -50話書いて、いちばん楽しかったのはどのあたりですか。

 森下 最終回! だからほんと、最終回見てほしい。パーッて終わっていく最終回で、ここのために今までがあったんだなと弾けた回なので。

【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)