大みそかに行われたNHK紅白歌合戦の視聴率が、歴代ワースト3位の39・4%だった(ビデオリサーチ調べ、関東地区)。安室奈美恵が1人で最高視聴率を48・4%に押し上げてくれなければ、平均視聴率は史上最低を記録していたかもしれない。歌よりバラエティー色に重点を置いた今回は、リハーサルでもいくつかの“異変”があり、紅白らしさとの距離感がどう出るかが注目されてもいた。

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 今回の紅白リハで古参記者たちがどよめいたのは、昭和から続く「司会者面談」の廃止だった。司会者がすべての出場歌手とそれぞれ面談し、歌手の自己紹介やステージへの抱負などを聞く場で、リハ初日の29日に行われる。ゆるいわりに時間を食うので、常に廃止論と背中合わせではあったが、司会者と出場歌手の一体感作りに欠かせないものとして続けられてきただけに、なくなってみると「大丈夫か」「歌手は不満なのでは」と心配する声が多く聞かれた。

 廃止した理由について、矢島良チーフ・プロデューサーは「司会者の企画が忙しい」ことを挙げ「場所を設けて面談というのはやめて、個別にやっていただくことにした」と説明した。

 実際、総合司会内村光良さんはこれまでとは比較にならない忙しさ。座長を務めるコント番組「LIFE!」の顔塗りキャラに変身して歌手とミニコントをしたり、欅坂46に混じって全力ダンスのオンステージに挑戦したり。内村ワールドを柱にした盛りだくさんなプログラムが組まれていて、面談などしている時間は確かになかった。

 紅白歌合戦のバラエティー番組化が進み、司会の役割が大きく変わったのだと思う。曲紹介や番組進行という歌番組の司会以外に、自らが余興の軸となって各コーナーを盛り上げるバラエティーMCの役割が増した感じだ。

 盛りだくさんでないと視聴者が納得しない時代なのかもしれないが、いいパフォーマンスをしたい歌手側からの要望が強かった司会者面談が、企画コーナー優先で割愛されてしまったのはちょっとショック。歌番組は歌で楽しませてくれればそれで良いと考える私のような古い紅白ファンは、コントをやる時間があるなら1分でも長く歌手のパフォーマンスを見たいと思ってしまう。内村さんがスキルと人柄がにじむ温かい司会ぶりを見せてくれただけに、NHK側のデコラティブな意識が気になるのだ。

 とにかく余裕がないのか、司会者面談だけでなく、プロデューサーの囲み取材も大幅に短縮された。例年、約15分かけて演出や舞台装置、出演交渉の進捗具合などについて質疑が行われるが、今年はわずか6分。「安室」「桑田」「司会者面談廃止」の3テーマで時間オーバーとなった。あれだけの報道陣の前で、言ったそばからネットニュースになる宣伝ざんまいの場であるのに、「時間がない」「本番を見て」と小走りに消えたのは、一視聴者としても残念で、視聴率的にももったいなかったと思う。

 次は安室のラスト紅白のような超目玉企画は望めないだけに、どういう路線で真価を見せて視聴率を回復させるのか、1年後を待ちたい。

【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)