1月期の冬ドラマが出そろった。脚本家のオリジナル作品が豊作で、各局が制作力、企画力のガチンコ勝負。紙幣偽造、妊活、ボディーガード、法医学、復讐、ホームコメディーなど、ラインアップもカラフルだ。「勝手にドラマ評」33弾。今回も単なるドラマおたくの立場から、勝手な好みであれこれ言い、★をつけてみた(定期シリーズものは除く)。

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フジテレビ月9ドラマ「海月姫」
フジテレビ月9ドラマ「海月姫」

◆「海月姫」(フジテレビ、月曜9時)芳根京子/瀬戸康史/工藤阿須加

★★★☆☆

 オタク女子の巣「天水館」で暮らす地味系女子が、女装男子・蔵之介との出会いで新たな自分を見つけるラブコメディー。作品の世界観を握る蔵之介役の瀬戸康史は当たり。上級者ファッションを着こなす美形ぶりと、男子に戻った時のプレイボーイのギャップ萌えがきちんとある。蔵之介ペースに巻き込まれる芳根京子が、おしゃれや恋など未知の感情にてんてこ舞いでかわいい。「尼~ず」モードのドタバタ感が苦手なので星3つだが、ここ数年の月9ではかなりまとも。ぶっちゃけ、いちばん笑えるのは肉食デベロッパーの泉里香。枕営業と嫌がらせの最果てキャラを全力で振り抜いていて、腰巾着とのバカすぎるやりとりをずっと見ていたい。

フジテレビ「FINAL CUT」
フジテレビ「FINAL CUT」

◆「FINAL CUT」(フジテレビ、火曜9時)亀梨和也/藤木直人/栗山千明

★★★☆☆

 報道被害で母親を失った息子のメディアへの復讐。「銭の戦争」「嘘の戦争」のスタッフで期待したけれど、ターゲットはひとつの番組。葬る相手がヒラのディレクターとか小物ばかりで歯ごたえがなく、ゲスさもマンガの域。スゴテク、バカテクの宝庫だった“戦争シリーズ”に比べ、追い詰める手段が盗撮だけで、「これがあなたのファイナルカットです」のキメぜりふが刺さらなかった。身内のドラマ班にこんな風に描かれて、情報番組班の憎悪の方がすごそう。注目は「プレミアワイド」のラスボス、藤木直人キャスター。会議でブチ切れてトロフィーたたき割る異常性と、それはそれで一聴に値するメディア哲学。正体不明なヒールっぷりが分厚い。

TBS火曜ドラマ「きみが心に棲みついた」
TBS火曜ドラマ「きみが心に棲みついた」

◆「きみが心に棲みついた」(TBS、火曜10時)吉岡里帆/桐谷健太/向井理

★★☆☆☆

 「ありのまま」「自然体」「努力すれば夢はかなう」は苦手ワードなので、このヒロインはちょっと無理。10分後に桐谷健太がギッタギタに否定してくれて助かった。自信がなく挙動不審で、あだ名はキョド子。「人見知りなんです」「私なんか」。男性が守ってくれそうな尻込みキャラに共感ポイントを見つけられなかった。DV男に刃物を振り上げられ、髪をズタズタに切られ、男子部屋でストリップさせられ、それでもまだ追いかけるとか謎すぎる。女性の尊厳をめぐって世界が大きく動きだした中、ドラマとはいえ企画がバロック。今期はオリジナル作品に快作が多いので、少女漫画の倒錯テイストはもういいかと。

◆「anone」(日本テレビ、水曜10時)広瀬すず/小林聡美/阿部サダヲ

★★★★☆

 血のつながりだけではない家族の形を描き続ける坂元裕二ワールド。虐待と格差社会といういつものグラデーションだが、話の中心に「1万円札偽造」というスリリングな犯罪があって新鮮。ワケあって偽札を刷る人たちと、ワケあってその金を奪おうとする人たち。絶望を語りながらもガッツあふれる醜い争いを展開していて、人間の強さともろさにひりひりとした余韻がある。天涯孤独な広瀬すずと、独居婦人の田中裕子が共犯意識でつながっていく初印刷のくだりや、本当に助けが必要な人が闇にのまれた3話のラストがしみた。表現できる役者が限られる坂元脚本とはいえ、手堅い顔ぶれが期待通りの演技すぎて既視感がすごい。

テレビ朝日木曜ドラマ「BG~身辺警護人~」
テレビ朝日木曜ドラマ「BG~身辺警護人~」

◆「BG~身辺警護人~」(テレビ朝日、木曜9時)木村拓哉/江口洋介/斎藤工

★★★★☆

 民間ボディーガードはキムタクのコマンドがはまる題材。政府要人を守る警察SPと違い、民間の警備会社に依頼してくるのは地域密着型企業の社長さんや、エリートの妻など一般の人たち。それぞれの事情にドラマがあり、「ザ・ガードマン」「男たちの旅路」「4号警備」などこのジャンルに名作が多いのも分かる気がする。上から目線の警察と折り合いをつける苦労や、「丸腰だから守れるものがある」という中年ヒーローの信念も共感できる。壊れたベンチに座るキムタクの落ちっぷり。みんなで時計を合わせて「誤差なし」の場面は私も混ざりたい。江口洋介、斎藤工、上川隆也など豪華に集めすぎたメンバーがいい抜け感でまとまっていて助かる。

フジテレビ木曜劇場「隣の家族は青く見える」
フジテレビ木曜劇場「隣の家族は青く見える」

◆「隣の家族は青く見える」(フジテレビ、木曜10時)深田恭子/松山ケンイチ

★★☆☆☆

 不妊治療というデリケートな題材に挑む深キョンとマツケンに応援しがいがあるので、「おしゃれ集合住宅の人間模様」のひとつに埋没させてしまって残念。見えっぱりな専業主婦、子供は要らないネイリストなど、型通りの設定のご近所さんたちが主人公そっちのけでヒートアップし、あれこれ広げすぎな群像劇に。6人に尺を取られ、主人公夫婦の妊活が専門用語の説明にとどまりがち。どの立場からも、描かれるのは女性のいやなところばかり。どこかに「女もすてきじゃん」と思える救いがないと、同性として視聴意欲がしぼむ。「今夜タイミングとりたいです」の深キョンのかわいさが頼り。

TBS金曜ドラマ「アンナチュラル」の石原さとみ
TBS金曜ドラマ「アンナチュラル」の石原さとみ

◆「アンナチュラル」(TBS、金曜10時)石原さとみ/井浦新/窪田正孝

★★★★★

 「逃げ恥」野木亜紀子脚本×石原さとみの法医学ミステリー。1話は院内感染、2話は凍死、3話は法廷もの。二転三転するストーリーの中にしびれる人間ドラマがあり、主人公の独創性、テンポのいい会話劇に見ごたえ。すっきりとメンタルが自立しているひたむきなヒロイン像は大好き。インドア職種を覆してがんがん動き、2話はトラックごと湖へ。理系女子のしぶとい発想に石原さとみがよく合い、言ったら負けのひと言を叫んだ3話の踏ん張りも刺さった。井浦新の態度の悪さが素晴らしく、いよいよの覚醒に期待しかない。変人でも天才でもない、普通の人たちの輝きがすてき。視聴率で「カリオストロの城」を抜いたのも立派。このチームに私も入りたい。

テレビ朝日金曜ナイトドラマ「ホリデイラブ」
テレビ朝日金曜ナイトドラマ「ホリデイラブ」

◆「ホリデイラブ」(テレビ朝日、金曜11時15分)仲里依紗/塚本高史

★★★☆☆

 不倫された妻側から「何が起こったのか」「どうしてこうなったのか」を振り返る視点が新鮮。題材は不倫、ジャンルはサスペンス、テイストはドロドロ。どんなドラマなのか序盤でちゃんと分かるのは大事なこと。金曜ナイトドラマらしいB級の全裸エロが効いていて、塚本高史が相手の夫に通勤カバンでぶん殴られ、慰謝料請求されるまでの急展開がいい流れ。すべてを知った妻の心の動きを仲里依紗が刻々と演じ、さすがの修羅場感。小悪魔の松本まりか、スピリチュアルな壇蜜など、イラッとする魅力の女性陣を貫禄で受け止める。「偶然」の背後にあるスマホアプリのからくりも面白そう。

◆「99.9-刑事専門弁護士-SEASON2」(TBS、日曜9時)松本潤/香川照之/木村文乃

★★★☆☆

 有罪率99・9%の壁に挑む若手弁護士第2弾。元裁判官の新ヒロインに木村文乃。教科書通りで応用がきかない女性エリートのテンプレートだが、この人を通して裁判官サイドの問題点に斬り込んだ制作のガッツは買いたい。被告人にポエムな訓戒をする裁判官を松潤が「無責任」と断じて笑った。よく動いてきちんと汗をかき、損得勘定がえげつない香川照之との迷コンビも安定。抱えてきた家族の過去を2話でさっさと解決させたのもいい。写真が撮られた角度の違いとか、警察が気付かないわけがない“新発見”の数々が今回もゆるい。「アンナチュラル」の法廷の方がすごかった。ガヤ担当が多すぎて、全然話が進まないキャラドラマに苦手感。

日本テレビ土曜ドラマ「もみ消して冬~わが家の問題なかったことに~」
日本テレビ土曜ドラマ「もみ消して冬~わが家の問題なかったことに~」

◆「もみ消して冬~わが家の問題なかったことに~」(日本テレビ、土曜10時)山田涼介/波瑠/小沢征悦

★★★★★

 変人エリート一家の騒動の数々を、末っ子警察官が全力でもみ消すドコメディー。ハレンチ写真の回収、犬探し、執事の家出。パシリな山田涼介が職業倫理と葛藤しながらひねり出す、「なんでそうなるの」な展開。女性診察室の床をはう、盗んだスマホを海へ投げる、なつかない犬にボコられる。ヘタな人がやるとピクリとも笑えない難役を山田涼介が顔面力でフルスイングしていて、「母さんお元気ですか」「見習い執事まで僕をいじり始めました」みたいな心の声とセットでげらげら笑う。不思議とホームドラマとしてよくまとまっていて、文字通りの笑いあり涙あり。主演俳優がきちんと作品の世界へ引っ張ってくれて楽しい。クセの強さにはまったので5。

◆「トドメの接吻」(日本テレビ、日曜10時半)山崎賢人/門脇麦

★★☆☆☆

 百億円の女をものにして成り上がりたいホストが、謎の女の“死のキス”でタイムリープを繰り返す。クズというより好青年な山崎賢人が、口裂け女風に追い回され、時空に放り込まれ、父親の冤罪ストーリーも同時進行。時空を戻るたびに百億円の女との関係性が微調整されるが、同じ日付、同じ場面、同じ出来事、同じ会話が約3周。主人公が前へ進むドラマが好きなので、回想と繰り返しは好みとは違った。SFの傑作が山ほどあったNHK少年ドラマシリーズ世代としては、タイムリープの使い方がいまひとつな昨今が歯がゆい。「世にも奇妙な物語」の1本なら違ったかも。菅田将暉が歌う「さよならエレジー」は今期の主題歌賞。

【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)