ソチ五輪女子モーグル決勝で4位となり、泣きまねポーズでおどける上村愛子(2014年2月8日)
ソチ五輪女子モーグル決勝で4位となり、泣きまねポーズでおどける上村愛子(2014年2月8日)

 平昌五輪(ピョンチャンオリンピック)があす9日、いよいよ開幕する。時差のない冬季五輪は98年長野五輪以来20年ぶり。テレビはNHK総合204時間、民放150時間超の放送で熱戦を伝えるという。選手たちが血のにじむ努力でつかんだ4年に1度の舞台は、勝っても負けても名場面の宝庫。今回も、どんな表情と、どんな言葉でそれぞれのドラマを見せてくれるか楽しみだ。

**********

 取材記者の習性としては、競技の輝きと選手の「言葉」をセットで考えてしまう。忘れられないのは前回のソチ五輪の女子モーグル、上村愛子選手だ。

 5度目の五輪出場。7位→6位→5位→4位ときて、誰もが「メダルを取らせてあげたい」と祈ったが、結果は4位。本人も、マイクを向けなければならないインタビュアーもつらかろうと思ったら、カメラの前に立った上村選手はとびきりの笑顔だった。「聞きづらいでしょうけど、まっすぐ聞いてください」。30年近く芸能記者として取材をしてきたけれど、こんなに凜(りん)としたすてきなコメントがあるのかと、画面にくぎ付けになった。競技の魅力も大いに発信されたと思う。

14年2月10日付東京最終版
14年2月10日付東京最終版

 負けた直後の選手にあれこれ聞くなという意見も耳にするけれど、勝った選手の喜びを伝えるだけがスポーツの醍醐味(だいごみ)ではない。敗者のすごさが伝わって初めて勝者の偉業が輪郭を持つ。血のにじむ努力をしたのに明暗が分かれてしまうところに、共感とドラマがあるのだ。メダルの栄冠を手にする人から、出場することに意義がある人まで、映し出されるスポーツ人生はみんなカラフル。あの時の上村選手を見て、強くそう感じた。

 あれから4年。上村さんはNHK平昌五輪の現地キャスターに起用され、感動を伝える側として“6度目”のオリンピックに挑むことになった。「自分の経験を生かして、アスリートと視聴者の皆さまの心をつなぐお手伝いをしたい」。歓喜の声も、負けた人の悔しさも、この人だから聞ける話は必ずある。NHKはいい人を選んだと思う。

 民放の主な五輪キャスターは、日本テレビ櫻井翔、TBS中居正広、テレビ朝日松岡修造、テレビ東京小泉孝太郎、フジテレビ高橋大輔ら。ソチ五輪で、ノルディック複合渡部暁斗選手の銀メダルに「この20年間、ノルディック複合はメダルがとれなくて、本当に苦しくて、うぅぅぅぅ」とわんわん泣いた荻原次晴も再びテレ東にいてちょっとうれしい。NHK、民放ともに、カラーを生かしたダイナミックな五輪放送を期待したい。

【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)

平昌五輪JC解説者
平昌五輪JC解説者

 ◆JC(ジャパン・コンソーシアム)五輪やサッカーW杯で、日本のNHKと民放連加盟社とで、共同制作するための放送機構。現地でのスタッフ不足や放送権料の高騰に対応するため発足。アナウンサーは局を代表して派遣される。