脚本家北川悦吏子氏(56)が手掛けるNHK連続テレビ小説「半分、青い。」(月~土曜午前8時)が4月2日からスタートする。

 「ロングバケーション」「愛していると言ってくれ」などのヒット作で“恋愛ドラマの女王”として知られる氏と、朝ドラの初タッグが話題だ。左耳が聞こえない女の子が、高度成長期から現代を駆け抜け、一大発明を成し遂げるまでを描く。北川氏が「朝ドラに革命を起こした」という自信を語った。

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NHK連続テレビ小説「半分、青い。」のヒロイン永野芽郁(左)と佐藤健
NHK連続テレビ小説「半分、青い。」のヒロイン永野芽郁(左)と佐藤健

 -「朝ドラでやりたい」と自らNHKに企画を持ち込んだ作品ですよね。

 北川 3年前、自分が左耳を失聴してショックだったんですけど、傘をさすと左側だけ音がしなくてちょっと面白いと思ったのがドラマになるんじゃないかと思ったのが最初で、朝ドラでやれたら画期的になるんじゃないかと。ファーストシーンになっていますが、タイトルと一緒にポンと出たという感じです。

 -手応えは。

 北川 朝ドラに革命を起こしたんじゃないかというくらい。同じ産院で同じ日に生まれた男女の話で、ヒロインが幼少期からじゃなくて、胎児から出ます。3話で新生児室で横並びのシーンがあって、(相手役の)佐藤健くんのナレーションで「まだ名前もない時に僕たちは出会った」と。今までラブシーンの出会いのシーンを散々書かされてきましたが、「名前もない時に出会った」なんて書けたのは自分でも画期的。健くんが「もう北川さんの代表作はロンバケって言わせませんよ」と言ってくれて、若い人たちが意気込んでくれているのはすごいうれしいことだと。

 -ヒロインの鈴愛(すずめ)を演じる永野芽郁さんの印象は。

 北川 鈴愛はこの子だと思って、私の中で自然にアテ書きが始まった。ひどいことを平気で言っちゃったり、好きなように書いている。そこをせき止められると、脚本がどんどん狭く小さく面白くなく、誰が書いても一緒になるので。あと、朝ドラは、実在の人物、戦争をはさむ、あとひとつ何だっけ(笑い)。この3つがあると当たると言われていて、それを全部外して書いているのもチャレンジング。私は、ヒロインはポンポンしゃべる早口な女の子がいいので、彼女は鈴愛にぴったり。彼女なら左耳が聞こえなくてもたくましく生きていくだろうという感じ。

 -そのたくましさをテーマにしていますよね。

 北川 昔、「オレンジデイズ」(04年)という、両耳が聞こえない女の子のドラマを書いたことがあるのですが、見てくれた人が「両耳が聞こえない女の子の話」ではなく「オレンジデイズみたいな青春したい」という青春ものとして語ってくれるのがうれしいことで。今回も、私のねらいはそこだった。

 -相手役の律を演じる佐藤健さんについて。

 北川 律は3回笛吹いて呼ばれるマグマ大使みたいに、自発的に動かない子なんですね。そんな彼がどうやって、どういう人生を見つけていくかというのがこの作品の裏テーマだと思う。健くんが来てくれたのは本当に大きい。「バクマン。」で彼のお芝居を観た時に、どうしても彼が欲しいと思って。受けの芝居と攻めの芝居が内在する人。ただ優しい子じゃない律の強さや意志は、佐藤健でしかできなかったんじゃないか。律は、自分が書いてきたラブストーリーの相手役の集大成になると思う。

NHK連続テレビ小説「半分、青い。」の脚本家北川悦吏子氏
NHK連続テレビ小説「半分、青い。」の脚本家北川悦吏子氏

 -15分×6本で1週、という朝ドラのサイクルを書く難しさは。

 北川 全部で156話の長丁場を書くのは初めて。よく千本ノックのように言われますけど、オリジナルなので球を探すところから始めて打つ、というハードなことを3日に1本やっています。私の原点のひとつに「世にも奇妙な物語」があるんですね。週に3つ企画出せみたいな百本ノックを常にやってきて(笑い)、アイデア勝負でオチまで攻めるというのが、15分の朝ドラと使う頭が似ている。フジテレビのトレンディードラマで軽やかな会話劇を学び、TBSの「愛していると言ってくれ」(95年)などで重たいシックなものを培い、それが全部重なってこの「半分、青い。」になったのかなと。

 -北川さんといえば恋愛ドラマですが。

 北川 そうではなくて、ずっとホームドラマを避けてきたんです。私としては、身内を書く方が恥ずかしいんですよ。でも、書いてみたらすごい書けた(笑い)。恋愛でも家族でも、自分は人と人を書くのが好きなんだなと。母と娘のシーンとか、ほっとくと一生書かないまま終わったと思うので、朝ドラとの出会いは新鮮でした。

 -びっくりした時の「ふぎょぎょ」など、北川さんの造語について。

 北川 自分で言葉を作るのが好きで。「チャラ男」って初めて言ったのは自分だという自負があります(笑い)。「愛していると言ってくれ」で書いたんですよ。キメぜりふを入れるのはかっこ悪いと自分では思うのですが、朝ドラにはそういうのがあってもいいのかなと。やってみたら意外と楽しい。流行らせようという野心はまったくありません(笑い)。