7月期の夏ドラマが出そろった。視聴率が低くなりがちな夏対策か、マンガ原作、小説原作、韓流ドラマなど原作ものが多発。先の見えないオリジナルでわくわくしたいドラマファンとしては少々切ない夏だ。「勝手にドラマ評」35弾。今回も単なるドラマおたくの立場から、勝手な好みであれこれ言い、★をつけてみた(定期シリーズものは除く)。

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フジテレビ月9ドラマ「絶対零度~未然犯罪潜入捜査~」
フジテレビ月9ドラマ「絶対零度~未然犯罪潜入捜査~」

◆「絶対零度~未然犯罪潜入捜査~」(フジテレビ、月曜9時)沢村一樹/横山裕/本田翼

★★★★☆

 人工知能が予測した、これから起こる殺人事件の未然捜査。主演の沢村一樹が深い闇を抱えた陽性リーダーというリバーシブルキャラで本領を発揮していて、明るさと不穏が交錯する作品カラーにテンポと見ごたえがある。無愛想な紅一点、パソコンおたく、職人肌のベテランなど新チームの配置も良く、前作に続く横山裕の正義感キャラがきちんと機能していて見やすい。骨伝導フォンを使った通信もいい新鮮味。魅力的なチームだし、AI捜査という切り口も独自なのだから、「絶対零度」にする必要はなかったのでは。前任者上戸彩のベトナム編が差し込まれるたびに流れが止まるのは残念。

テレビ東京ドラマBiz「ラストチャンス再生請負人」
テレビ東京ドラマBiz「ラストチャンス再生請負人」

◆「ラストチャンス再生請負人」(テレビ東京、月曜10時)仲村トオル/椎名桔平

★★★☆☆

 経済ドラマに特化したテレ東新枠の第2弾。飲食チェーンの財務責任者に転身した元銀行マンの会社再建。主人公の周りが抵抗勢力と裏切り予備軍だらけでわくわくするし、うらみ、つらみ、ねたみ、そねみ、いやみ、ひがみ、やっかみの「七味とうがらし」というテーマもドロドロ感を盛り上げる。テイストはWOWOWの社会派ドラマ寄り。転職業界の人間模様を1話完結で描いた前期の「ヘッド・ハンター」が攻めっ気満々の快作だっただけに、「第三者割当増資」「含み損」などの顛末が続き物で展開する本作はちょっと難しくてテンポが悪く感じた。銀行合併のシビアな現実、フランチャイズのからくりなどの描写は、経済に強いテレ東印。

フジテレビ系連続ドラマ「健康で文化的な最低限度の生活」
フジテレビ系連続ドラマ「健康で文化的な最低限度の生活」

◆「健康で文化的な最低限度の生活」(フジテレビ、火曜9時)吉岡里帆/井浦新/川栄李奈

★★★☆☆

 原作マンガと同様、きれいごとばかりではない生活保護の世界を偏見なく伝えたいという志を感じる作風。悪目立ちヒロインの役が続いていた吉岡里帆は、今回のまっすぐでまじめな公務員役は久々のはまり役だと思う。テーマも展開も重めで夏向きではないが、青臭さが裏目に出たり、その場しのぎの言葉が後で大ごとになったりという新人らしい失敗に共感できる。悩んで反省して何かをつかむヒロイン像は大好きなだけに、よちよちした描写が長いのが残念。落ち込む仲間が明日もちゃんと働けるように「自転車の油差しといた」と無愛想に去る川栄李奈は名場面だった。上司が田中圭、指導役が井浦新という天国。視聴率ほど中身は悪くない。

TBS火曜ドラマ「義母と娘のブルース」
TBS火曜ドラマ「義母と娘のブルース」

◆「義母と娘のブルース」(TBS、火曜10時)綾瀬はるか/竹野内豊/佐藤健/上白石萌歌

★★★★☆

 「リサーチと交渉」のビジネス脳でぐいぐい母親ミッションしてくる変人義母と、どん引く娘がきずなで結ばれるまでの10年の軌跡。原作は4コマのギャグ漫画。1話の綾瀬はるかの腹踊りにさっぱり笑えなかった自分が心の傷になり、完全に波に乗り遅れてしまった。娘のため、たった1人でPTAにけんかを売った3話でギャグ路線から感動路線にシフト。変人キャリアウーマンが成し遂げる規格外の家族づくりとして、楽しむツボが分かってきた。脚本は森下佳子氏。後半に向けて伏線の回収と感動の大波をもってくる手だれなので期待。個人的にホームドラマが大の苦手なので4だが、先は楽しみ。

日本テレビ水曜ドラマ「高嶺の花」
日本テレビ水曜ドラマ「高嶺の花」

◆「高嶺の花」(日本テレビ、水曜10時)石原さとみ/峯田和伸/芳根京子/千葉雄大

★★★☆☆

 華道名家のお嬢さまと、ブサメンな自転車屋さん。脚本野島伸司で「101回目のプロポーズ」のテイスト。ガラスのハートと火の玉のような自意識が交錯するこじらせキャラは石原さとみの独壇場だが、ちょっと頼りすぎ。峯田和伸の刺激が強すぎる画面とか、多すぎる登場人物たちの介護やら引きこもりやらでトータル何の話かよく分からないストーリーとか、主演の負担が大変そう。「アンナチュラル」で新境地を見せつけた後だけに、得意な悪態と、時々飛び出すポエムみたいなせりふで腕力勝負させられているのは惜しい。ヒールの千葉雄大、ダークサイド発動の芳根京子という強キャラが魅力的なので、仁義なき華道界バトルで普通に見たかった。

フジテレビ木曜劇場「グッド・ドクター」
フジテレビ木曜劇場「グッド・ドクター」

◆「グッド・ドクター」(フジテレビ、木曜10時)山崎賢人/上野樹里/藤木直人

★★★☆☆

 韓流ドラマ原作。自閉症であり、驚異的な記憶力を持つサヴァン症候群の新任医師、新堂湊の小児医療での活躍。デリケートな設定だが、異分子が組織と人を変える流れはドクターXと同じ医療ものの王道。「この子、死んでしまうんですか」「はい。あと30分で死にます」。心の準備や、オブラートに包むなどの情緒と無縁な新堂先生の言葉はヒヤヒヤするが、なぜ30分なのか、どうすれば助かるのかの根拠にもうそはないので、受け手の心の置き所が試される。主人公が無慈悲に怒鳴られ、どつかれる韓流テイストと、粘り強さが引き寄せる勝利。ラストで描かれるサヴァンならではの患者へのギフトがよく練られていて、心温まる着地に救われる。

TBS金曜ドラマ「チア☆ダン」
TBS金曜ドラマ「チア☆ダン」

◆「チア☆ダン」(TBS、金曜10時)土屋太鳳/石井杏奈/佐久間由衣/オダギリジョー

★★★★★

 女子高生たちがチアダンス部を作り、「できっこない」全米制覇に挑む青春。実話を描いた大ヒット映画の9年後。ぐいぐい来る転校生エースの登場でヒロインのやる気スイッチが入る導入があざやか。四面楚歌の部員集め、意外な人物の加入、みんなでつかんだ最初の1歩。ベタな過程を丁寧に描き、彼女たちとうれし涙、悔し涙をともにできる。土屋太鳳の「全力でやろうさ」にピチピチな説得力があり、石井杏奈、佐久間由衣ら次世代スター大集合で画面に勢いがある。逆転劇への産声となる「悔しいです」の団結と、顧問オダギリジョーの教師像がベールを脱いだ3話は上等だった。いいなあ夢ノート。夏はこういうキラキラしたのがいちばん。

テレビ朝日金曜ナイトドラマ「dele(ディーリー)」
テレビ朝日金曜ナイトドラマ「dele(ディーリー)」

◆「dele(ディーリー)」(テレビ朝日、金曜11時15分)山田孝之/菅田将暉/麻生久美子

★★★★★

 デジタル遺品の削除(=dele)を請け負う1話完結のバディもの。ベストセラー作家本多孝好の原案脚本で、脚本陣に金城一紀ら映像界のすごい人たち5人が参加。クリエーティブファーストな作品の世界観を山田孝之、菅田将暉がきっちり形にし、消したいものに宿る人間ドラマが格の違う面白さ。優秀なガキの使い(菅田)の採用で「社交性と機動力」のアナログ力を手に入れた車いすプログラマー(山田)。デジタル力とバディ力が一気に動きだす1話にわくわく。テンポのいい会話劇も、一瞬のアイコンクタクトも息ぴったり。引きで撮れる映像センスが映画的で、菅田将暉のらせん階段アクションがかっこよかった。

◆「サバイバル・ウェディング」(日本テレビ、土曜10時)波瑠/伊勢谷友介

★★☆☆☆

 テレ東の「LOVE理論」以来、もう何匹目のドジョウか分からないスパルタ婚活指南もの。2年前に中谷美紀&藤木直人がやったTBS版が、ドSとスポ根の応酬で斬新な婚活ドラマに仕上げてきただけに、よそとは違う何かが伊勢谷友介のおかっぱ頭だけというのは悲しい。「半年以内に結婚できなければクビ」という設定と、人に流される性格のドタバタだけがあり、主人公がぐずぐずと成長しないのはドラマとしてしんどい。心の声を多用するドラマも苦手。変人編集長、伊勢谷が語る実在ブランドのマーケティング学になるほど感。伊勢谷友介は何もしなくても十分風変わりなので、こんな髪形にせず、素でやってくれた方が変人度が上がったかも。

テレビ朝日土曜ナイトドラマ「ヒモメン」
テレビ朝日土曜ナイトドラマ「ヒモメン」

◆「ヒモメン」(テレビ朝日、土曜11時15分)窪田正孝/川口春奈

★★★☆☆

 「オトナ高校」「おっさんずラブ」ときて今回は「ヒモ」。女のカネで暮らしたいヒモ男と、更生させたいカノジョの戦いを描いたマンガ原作をドラマ化。「仕事探さないの?」「えっ、俺が?」。ナチュラルすぎるヒモ体質を窪田正孝が陽気に演じていて、バックハグして「1000円ちょーだい」のC調がクズすぎて笑える。働くくらいなら短パンで崖を登る無職のエネルギーに未知のドラマがあり、働きたくない強い気持ちがゆり子(川口春奈)のピンチを救っていく。「みくびらないでください。俺は無職です!」「無職の前では無力ですっ」。どんな権力者も無力化する戦い方が新しい。これもひとつの働き方改革。

TBS日曜劇場「この世界の片隅に」
TBS日曜劇場「この世界の片隅に」

◆「この世界の片隅に」(TBS、日曜9時)松本穂香/松坂桃李

★★★☆☆

 女の子が恋をしたり、日常をカラフルに工夫するのは戦時中もインスタ時代も同じ。ヒロインに地続き感があったアニメ版に比べ、やはり朝ドラ臭いというか、課題図書っぽく感じた。単純に、連ドラで放送時間が長いせいかも。この時期の戦争ドラマは、やはり2時間くらいのSP版がベストなのだと思う。朝ドラ、大河のスター陣で固めた豪華なキャスティングは、よそから大物選手を集めた勝ち組球団みたいで苦手。むしろ既視感のない村上虹郎の人間味にぼろぼろ泣けた。クラウドファンディングでこつこつ手作りしてヒットさせたアニメの希望の方が原作マンガと重なるが、どちらも丁寧に作られた良作。松本穂香のおおらかな笑顔に救われる。

◆「ゼロ一獲千金ゲーム」(日本テレビ、日曜10時半)加藤シゲアキ/小池栄子/間宮祥太朗

★★★☆☆

 義賊を名乗る塾講師が、カネの帝王主催の闇ゲームで優勝賞金1000億円を目指す。「アカギ」ほど絶対的な天才でも、「カイジ」ほどクズ型の天才でもない優等生のゼロは福本伸行マンガの中ではジャニーズ向き。一方で、ゼロの優秀さや福本作品の深さがよく分かる悪趣味なゲームほど、アイドル仕様の対策になるジレンマ。友情、努力、勝利のピュアさや、「義賊」へのあこがれなど、原作17歳だからはまる青臭さを30代アイドルがやるカオス。1話はなかなか鉄球が落ちない、2話は結局飛ばない。ぎゅっとしたら5分くらいのゲームを延々と引っ張り、3話で少しだけテンポが出てうれしい。つっこみどころ満載で逆にクセになってきたので毎週見る。

【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)